ちえとくをフォローする

勇気をくれる

シリアの片足のない父親と両手足がない息子を写した写真

シエナ国際写真賞をご存知ですか?

プロ・アマ問わず世界中から参加できるイタリアの写真コンテストで、2015年の開始以来、多くの写真愛好家が腕を振るうかのように応募しています。

毎年、世界中の美しい自然や、人間の生き方を切り取った写真が数多く寄せられるシエナ国際写真賞ですが、そこで受賞を果たした写真が今、世界中の人の注目を集めています。

「人生の苦難」というタイトルが付けられたその受賞作、実際にご覧ください。

息子を抱いて、高い高いをする父親…そんなシリア人親子の一瞬を切り取った写真。

しかし父親には、右足がありません。そして、高い高いをされている息子には、両手足がないということに気がつくでしょう。

撮影したのは、トルコの写真家のMehmet Aslan。写っているのは、ムンジル・エルナジール(33)とその息子ムスタファ(6)です。

ムンジルは、シリア北西部イドリブで市場を歩いているときに、爆弾に遭って右足を失いました。そして息子のムスタファは、母親がムスタファを妊娠中に神経ガスを浴びてしまったため服薬を余儀なくされ、生まれつき両手足がありません。

ムンジルもムスタファも、そしてムスタファの母親も、終わりなきシリア内戦の犠牲者なのです。一家は内戦を逃れて、トルコへ避難。その避難先のトルコで撮影されたのが、この一枚です。

想像を絶するような、過酷な環境の中でも、この親子は笑顔を失うことなく、ごくありふれた親子のように、親子水いらずの時間を過ごしています。この過酷さは、彼らの日常の一部なのでしょう。ひょっとするとムンジルは、息子に心配をかけまいと、精一杯の笑顔を浮かべているだけなのかもしれません。

美しい親子愛、しかしどこか心が苦しくなるようなそんな一枚に、世界中の人々が心を動かされました。

この写真をきっかけとして世界からの注目を浴びたエルナジール親子ですが、その後驚くべき展開が待ち受けていました。

写真を見た人々から、この親子がより安全なイタリアへ移住することを手助けするべきだという声が高まり、その結果、フォトアワードの主催団体が彼らのためにクラウドファンディングを実施。また、イタリアの政府や病院と交渉を行い、晴れてエルナジール親子はイタリアへ移住できることとなったのです!

その知らせを聞いた時、ムスタファはでんぐり返しをして喜んだと言います。

親子は、イタリアで定期的に通院し、リハビリにあたる予定だということです。ムンジルは数週間ほどで義足に慣れるだろうと医師たちは予測していますが、ムスタファの方は成長中の子供であるということから、より多くの困難にぶち当たるでしょう。体の成長に合わせて、義肢を調整し続けていかなければならないからです。しかしそれでも、大人になる頃までには義肢にも慣れ、車の運転ですらできるようになるだろうと予想しています。

ムンジルは、イタリアに行くことを助けれくれた全ての人々に深く感謝していると言います。そしていつの日か、息子のムスタファが自分にハグしてくれることを夢見ているのです。

いかがでしたか?

時に写真家だけが名声を得て、被写体の権利などが踏みにじられたりしてしまうこともある中、今回のケースでは、被写体たちがより良い人生を歩み出すきっかけになったという事実に、嬉しい気持ちになります。写真がいかに現実を伝え、現実を変える力があるのかを思い知らされました。

エルナジール親子の新しい門出に、幸あれ!

プレビュー画像: ©Facebook/Siena Awards