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歩行補助器を使いながらのも「庭を歩くチャレンジ」でコロナ禍の医療従事者に47億円の寄付をした100歳の男性 しかしその最期に言葉が詰まった

学生時代や学校を卒業して社会に出たばかりの頃は、なりたい自分の将来象や憧れの職業への転職のためなど、様々な「挑戦」の機会があります。でも年を重ねるごとに、挑戦することに対し年齢を理由にしてしまうこと、ありませんか?


心揺さぶられる感動の瞬間を収めたストーリーはこちらから。(記事の続きはスクロールしてご覧ください)

 


挑戦は人生を面白くするというように、「何かに挑む」ことはいつだって人生を大きく変えるきっかけになるのです。

◾️ すべての始まりは目標1000ポンドの歩行チャレンジ

2020年4月、イングラアンド東部のベッドフォードシャーに住む当時99歳だった退役軍人のトム・ムーアさんは同月30日に迎える自身の100歳の誕生日に向けてある挑戦をすることにしました。

ムーアさんは、腰骨の骨折やがんの治療でお世話になった国営医療制度「国民保健サービス(NHS)」に感謝したいと、支援組織「NHSチャリティーズ・トゥギャザー」のための寄付金を募ることにしました。寄付金を集めるにあたって、自宅の幅25メートルの庭を歩行器を使い誕生日までに100回往復するというチャレンジを設定、募金をインターネット上で呼びかけたのです。

人工股関節置換手術を受けて以降、毎日運動をしていたムーアさん。高齢に加え、足の手術をしている彼にとって、このチャレンジはまさに自分の限界に挑戦するものだったのです。この99歳のチャレンジをメディアが伝えると、懸命に歩く姿と彼の精神に共感した国内外の93万人以上の人々から短期間で巨額の寄付が寄せられました。

当初の目標金額は1000ポンド、日本円で約13万円でしたが、集まった総額は100往復の目標達成をした翌日までに約27億円。これまでに寄付金額は総額で約47億円にものぼると言われています。ムーアさんはこのチャレンジがもたらした結果を受け、感謝の意と共に、コロナ禍で辛い日々を送るイギリス国民に「最後は(困難を)切り抜けられる。大丈夫だ」と激励のメッセージを送ったそうです。

◾️ 困難を生き抜いた100歳

退役軍人で100歳のムーアさんが生まれたのは、1920年。ちょうどその頃はスペインかぜが世界的に流行していました。100年前のパンデミックを生き抜いたムーアさんは、その後1940年に徴兵。41年10月、インドに配属され、旧日本軍との「ビルマの戦い」を経験しています。その後英国任務につき大尉まで昇進しました。退役後は、コンクリート企業の経営に携わってきたそうです。

 
 
 
 
 
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◾️ 「感謝したい」という気持ちが100歳の彼をイギリスのヒーローに

命の危険にさらされた人生を送りながらも生き抜いてきたムーアさん。歩行チャレンジで「キャプテン・トム」の愛称で親しまれるようになった彼の100歳の誕生日には、陸軍より名誉大佐の称号が贈られました。

Instagram@guardian

そしてエリザベス女王やボリス・ジョンソン首相からお祝いのメッセージをはじめ、イギリス全土から約14万通ものバースデーカードが届けられました。また、ムーアさんへのバースデーカードには、「NHSファンドレイジングの英雄、トーマス・ムーア大尉の100歳を祝して」というスタンプが押印されていたそうです。※ファンドレイジングとは民間の非営利団体が活動のための資金を個人や企業などから集める行為のこと。

Instagram@guardian

誕生日の日、ムーアさんは一連の出来事にこうコメントしています。

「みんなが私に、素晴らしいことをしたというが、実際には皆さんが私にしてくれたことこそ素晴らしい。いつでも、明日はいい日になると覚えていてほしい」

さらには、7月17日の叙勲式はウィンザー城の中庭でエリザベス女王より、募金活動を称えてナイトの爵位が与えられました。歩行チャレンジを通し、ムーアさんは医療従事者だけでなく多くの人に勇気を与えたヒーローとなったのです。

Instagram@guardian

◾️ ギネス記録保持が2つに

100歳の誕生日に行った歩行チャレンジで集まった寄付金額で、チャリティーウォークのギネス世界記録にも認定されたムーアさん。実は、チャレンジはそれだけでは終わりませんでした。100歳の誕生日を目前に控えた4月下旬、コロナ禍で働く医療従事者への応援歌として、サッカー界で有名な曲「You’ll never walk alone」(和訳:きみは独りぼっちじゃない)をミュージカル歌手のマイケル・ボールさんやNHSスタッフらとコーラスしカバー。

このカバー曲がシングルとしてアップロードされると、たちまち8万2000ダウンロードを記録。2020年4月24日に発表されたイギリスの音楽シングルチャートで週間首位を獲得したのです。これにより、ムーアさんは初登場にしてチャート1位の最高年齢を記録しギネス認定されました。

「みんなの力でこの結果を出すことができました。これこそ、誰も独りぼっちじゃない、という証拠です」

ムーアさんはこの快挙にこうコメント。シングルチャートの売り上げを、すでに集めた寄付金の37億に上乗せして、全額をNHS(英・国民保健サービス)に寄付しました。

◾️ 激動の100歳の最期

昨年4月に迎えた誕生日を機に目まぐるしい日々を送ったムーアさん。その後も自叙伝の出版や、男性向けファッション誌「GQ」英国版で、2020年最も活躍した男性として選出されるなど、注目の存在に。

しかし今年1月半ば肺炎で入院、いったん退院はしたものの、コロナウィルスへの感染が発覚。今月2日、入院先の病院でその人生に幕を閉じました。

この国民的ヒーローの訃報に、エリザベス英女王は、ムーア大尉が「全国民と世界中の人たちを励ましてくれた」と哀悼の意を表明。またボリス・ジョンソン英首相は首相官邸に半旗を掲げ、「キャプテン・トムは本当の意味で英雄だった。第二次世界大戦の暗黒の時代に国のために戦い、この国で最も深刻な戦後の危機に直面すると、彼はみんなを団結させ、元気づけ、人間の精神の勝利を体現した」とツイートしました。

国民的ヒーローとなったムーアさんが、100歳の誕生日に贈られた名誉大佐の称号を受け取った際のコメントが印象的です。

「私は今でもトム大尉ですよ、それが自分の身の程ですから。だけどもし皆が『大佐』と呼んでくれるなら、そうですね、それは大変ありがたいことです」

100歳にして偉業を成し遂げたムーアさん。しかし、彼が発する言葉には、いつも周囲への感謝の気持ちと未来への希望がありました。

「今年、ひとつ学んだことがあるとすれば、新しいことを始め、(人生に)変化を起こすのに遅すぎるということはないということです、特にその挑戦が世界中の人々に生きる希望と光をもたらすのであれば」

感謝の気持ちを忘れず、常にひたむきに生きてきた姿が、このコロナ禍の厳しい現実の中、多くの人を勇気づけ、光となって未来を照らしてくれたました。ムーアさんの娘さんによると、この1年はムーアさんにとってこの上なく素晴らしいものとなり、その姿は若々しくすら見え、夢でしかなかったことを経験できた1年だったそう。彼の存在はいくつになっても挑戦することの素晴らしさを私たちに教えてくれました。最後に、ムーアさんのご冥福を心よりお祈りいたします。

プレビュー画像:©︎Pinterest/KRH