すごい人たち
為末大が小学生の全国大会廃止に賛成な理由
スポーツ界で今大きな話題を呼んでいる出来事があります。
毎年夏に全日本柔道連盟が主催していた、『全国小学生学年別柔道大会』の廃止が発表されたのです。多くの柔道に真剣に取り組む小学生たちが、自分の腕を試し、研鑽するための全国大会。一体どうして廃止されてしまったのでしょうか。
全日本柔道連盟は、このように説明します。
昨今の状況を鑑みるに、小学生の大会においても行き過ぎた勝利至上主義が散見されるところであります。心身の発達途上にあり、事理弁別の能力が十分でない小学生が勝利至上主義に陥ることは、好ましくないものと考えます。
いくらそこに理由があるとは言え、柔道に取り組む小学生たちの目標が消えてしまうことに、多くの人が動揺を隠せませんでした。
そんな中、全日本柔道連盟の決断に、いち早く反応した人物がいました。
為末大(ためすえ・だい)さんです。
為末さんと言えば、元陸上競技選手。スプリント種目の世界大会で日本人で初めてメダルを獲得するなど、生粋のアスリートです。
現在はスポーツコメンテーターとして、スポーツに軸足を置きながら、社会全般に関することを発信し続けています。
そんな為末さんの発信した「全国大会廃止」に関するツイートが今、多くの人々の共感を集めているのです。
実際に一連のツイートをご覧ください。
全柔連が小学生の全国大会を廃止するという決定をしました。私は素晴らしい決断だと思います。なぜ若年層での全国大会を行わない方がいいのか三つの理由で説明します。
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
①そのスポーツが弱くなるから
②全ての子供がスポーツを楽しめないから
③競技を超えた学びが得られないから
まず若年層の全国大会が成人になってからの競技力向上に役に立っているかというとマイナス面の方が多いと考えられます。その理由の一つには早すぎる最適化があります。子供は大人が小さくなったというわけではなく大人と子供では特性に違いがあります。発達にばらつきがあると言ってもいいです。
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
例えば体が小さいのになぜか子供は字を大きく書きます。それは筋の調整と連動がうまくいかないから細かい作業がまだうまくできないからです。その一方でリツイ体制のバランス自体は大人とそれほど変わらないぐらいうまくできます。このように子供は大人のミニサイズではありません。
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
ということは子供の世代の柔道は大人の柔道のミニサイズではなく勝利のためには違う戦略が求められるということです。早すぎる最適化とはこの子供時代の勝ち方に最適化してしまったが故に、大人になって本来行き着くレベルまでいけなくなってしまうことを指します。つまり器が小さくなるということです
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
柔道はそれほどではないかもしれませんが、日本人が海外の試合に出てよく聞かれる質問は「日本人は10代ではあんなに強いのに、20代になってからなぜ弱くなるのか」です。要するに若年層の時代にトレーニングをしすぎて、大人になった時に世界とは戦えなくなっているというのが現状だと考えています。
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
欧州で中高の全国大会が禁じられた時のロジックは「子供たちはスポーツを楽しむべきであり、それは試合に出ることで補欠で試合に出られないことや過剰に勝利至上主義に走ることは避けなければならない」というものだったそうです。全国大会は勝ち抜き戦の構造を作り、敗退と補欠を生みます。
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
日本のスポーツは全てが「選抜システム」であると言われます。それは全てが才能を発掘する目的に向かっていて、全ての子供がスポーツを楽しむという視点の欠如に向けられた批判です。一方で勝ちたい子供を制限するのかという反対の声もあります。しかし現場に行けばわかるのは最も勝ちたいのは大人です
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
早い段階で日本一になりましたので、離脱していく選手をたくさんみてきました。そのような選手にある特徴は本人より周りが興奮していることです。親と指導者が選手の才能に興奮して舞い上がっている場合、その選手の才能が潰れる可能性が高くなります。なぜなら最も重要な主体性が損なわれるからです
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
99.9%以上の選手はオリンピックに行けません。アスリートで食っていけるのもそのぐらいの確率です。ほとんどの選手はアスリートという職業にはつけません。だからこそ競技から学んだことにどの程度の普遍性があるかが重要になります。では普遍的な学びとはなんでしょうか。
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
それは少なくとも自分が何をしようとしているかを知り、何が起きたかを理解し、どうすればいいかを考えることができることで成立します。リフレクションです。ただこの能力は育つのに時間がかかります。若年層だけで活躍させようとするならば、この手順を省く方がうまくいきます。
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
つまり言われた通りやる人間を作ることです。しかし、このような選手は引退した後、苦労します。自分の体ではある程度のことはしてきたわけですが、一体それがなんだったのか本人がわかっていないからです。考える力が育っていません。
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
以上の理由から、全国大会の廃止は素晴らしいことだと私は考えます。ぜひ他競技でも追随してほしいです。
— Dai Tamesue 爲末大 (@daijapan) March 18, 2022
そう、為末さんは、子供時代に勝てる戦略と大人になった時に勝てる戦略は違うということを指摘した上で、小学生の段階から勝ちにこだわる姿勢が、むしろ大人になった時の伸びしろを奪ってしまうということを危惧し、「小学生の全国大会廃止に賛成である」というスタンスを示したのです。
そして、こんな印象的なフレーズを残しています。
「現場に行けばわかるのは、最も勝ちたいのは大人です」
元スポーツ選手の言葉だけに、非常に強い説得力があります。このツイートは多くの人々の注目を集め、現在までで5万以上のいいね!を集めています。
Twitterの人々の声
競争が嫌になって県大会をバックレた立場から言うにとても賛成です。とあるアスリートから引用しますがスポーツは豊かになるものです。スポーツを老若男女普及させるならこの政策はいいですね。
— 諦人 (@Cdile8jLEnBFbJo) March 18, 2022
全国の廃止は置いておいて…
— ゴン太君 (@skyhka01) March 18, 2022
まずは各指導者の考え方の変革が必要。
型にとらわれたり、ガチガチな指導方針。
これは年少期にはあわない。どれだけ楽しくできるか。その中で、上手くなれるか。
これを模索していくべき。
そのなかで、廃止なら納得。
まぁ6年生ぐらいはあってもとは思うが…
元々スポーツは「プレイする」=「楽しむ」ものだから
— さんぴん (@sanpin3193) March 18, 2022
幼少期の段階で下手に勝利至上主義を煽るといやいややらされてる感が出てしまうし、その後の人格形成にも影響が出てしまうと思う。
まずは楽しくやるってことが大事。スポーツなんてたかが「自分の人生を彩るピースの一つ」に過ぎないのだから。
昔々、オリンピックの銅メダリストが指導しているハバロフスクの柔道チームを視察したとき、ロシアでは15歳未満は試合に出さないと言ってましたよ。
— 板橋さとし㈱リム・ランナーズ (@satosiTS) March 19, 2022
15歳未満は体の発達に応じた適切な指導が優先するべきだと考えていました。
しかも17歳まで一貫指導なので、16歳以上の上級生が選手になるわけです。
為末さんの意見には、共感の声が多かった一方で、もちろん反対意見も挙がっています。特に多かったのは、「小学生の子供の目標を奪ってしまうことは残酷だ」「全国大会を楽しみにしている子供たちも多くいる。それを奪うのは、それこそ大人のエゴなのでは?」と言ったようなものでした。
しかし、選手が早い段階で、身体的に、もしくは精神的に潰れてしまうということは、残念ながら柔道などの武道の世界だけでなく、球技の世界でもしばしば起こっていることなのです。
それを大人がどうコントロールできるのか?ひょっとすると、小学生の全国大会を廃止するということは、その第一歩になりうるのかもしれません。
まだまだ議論の続きそうなこの話題、みなさんはどう思いましたか?
プレビュー画像: ©Facebook/Akinosuke Inoue
