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このリスの絵がどうやって描かれたか分かりますか?情熱と意志があれば不可能はないことを教えてくれるアーティストの人生

1921年、ポール・スミスという男の子が米国ペンシルバニア州フィラデルフィアに誕生しました。ポールは重度の脳性麻痺であったため、話すことも歩くこともできず、歯を磨く、ボタンを留めるなど、普通の人にとっては意識しなくてもできる当たり前の手の動きも不自由でした。医師も両親も彼が幸せな人生を歩むことはもちろん、長生きができるとすら思っていませんでした。

当時、公立学校では心身に障がいのある子どもは入学さえできませんでした。しかし、ある機械との出逢いが彼の人生を一変させます。それは、当時、事務機器として広く用いられていた「タイプライター」。

読み書きもできず、鉛筆や筆を握ることもできない彼は、11歳の時に近所の人が捨てたタイプライターを使って遊び始めたのです。タイプライターのキーは彼の手がどんなに震えていても、常にポールが望んだ通りの文字を打ち出してくれます。やがて彼は、その機械を使い、自分自身を表現する独自の方法を発見していきました。彼はタイプライターで絵を描いたのです。

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彼は左手で右手を抑え、キーを押し、次々に独自の画法を生み出していきます。

カラーテープが発明されると、彼はカラーテープを使い、絵画に色をつけるようになりました。

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絵の細部は、キーボードの記号を巧みにつなぎ合わせて構成されています。

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やがて、彼はタイプしたばかりの乾いていないインクを指でこすり、陰影をつけるようになりました。この技巧により、彼の絵に木炭画やパステル画のような表現力が加わりました。

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ポールは、家や木、人や動物など、目に入るものすべてをタイプライターで「描く」ようになります。

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ちなみに、このリスは多くの作品に脇役として登場する彼の親友。

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精巧な絵を描きながら、ポールは他の困難もたゆまぬ努力で克服していきます。話せるようになったのは16歳になってから、歩けるようになったのは、なんと32歳のときでした。

驚くべきことに、ポールの作品は、タイプライターのキーボードの最上段にある「!」「@」「#」「%」「^」「_」「(」「&」「)」という数少ない記号キーだけで作られています。さらに、当時のタイプライターは、間違えて押したキーを消すことができなかったため、ミスは許されませんでした。

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彼は目にした風景や物だけでなく、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」や「モナリザ」、ロダンの「考える人」など、憧れの名画をタイプライターで描くこともありました。

また、多くの著名人の肖像画を描き、その作品を好きな人に惜しみなく与えました。

ポールは絵画で有名になりましたが、今でも「アスキーアート」の創始者の一人として多くの人に影響を与えています。アスキーアートとは、文字や数字、特殊文字をつなぎ合わせるだけで絵を描く技術のことです。

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ポールは2007年に米国オレゴン州のローズ・ヘブン・ナーシング・センターで亡くなりました。享年85歳。彼を知る人々は、彼のことを、謙虚で、温かく、知的で、ユーモアにあふれていたと表現しています。

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ポールのライフストーリーを紹介した動画(英語)をこちらでご覧いただけます。

ポールがタイプライターに初めて触れたのは1930年代。その後、障がいのあるアーティストが作品を生み出す方法は大きく変わりました。しかし、技術を習得し、それを芸術作品に昇華する情熱と意思の強さが必要な点は変わりません。ポールの作品は、強い意志と情熱があれば、夢を実現することは可能だということを私たちに力強く教えてくれます。

 

プレビュー画像: ©️Youtube/Jim’s YouTube Channel