ちえとくをフォローする

人気の記事

写真の中で二人の子供たちと幸せそうに微笑む母親。しかしテーブルの下には、悲劇の痕跡を見ることができる。

2012年3月2日はステファニー・デッカーにとって忘れがたい一日となりました。子供達と共にインディアナ州ヘンリーヴィルに暮らすステファニーは、二つの義足を見るたびに、両脚を失うことになったあの日を思い出します。しかしその日の行動を、ステファニーは一度たりとも後悔したことはありません。

その日、巨大な嵐の雲が地平線の向こうに姿を現したとき、ステファニーは二人の子供、ドミニクとリーズと共に帰宅したばかりでした。家の中でいれば安全だと、そのときステファニーは安堵していたそうです。しかし事態は深刻な状況へと発展します。F4クラスの竜巻が街にまっすぐ向かい始めただけなく、その最中に、F2クラスの竜巻がもう一つ現れたのです。

地下室へ避難しなければいけないほどに深刻な事態であることはステファニーの目にも明らかでした。

「外を見ると自宅の庭に杭で打ち込み固定していたトランポリンが飛ばされていくのが見えました」

nssl0210

地下室に避難したものの、状況は悪化するばかりでした。

「家中が揺れ始めました。その段階で私はすっかり恐怖に身がすくんでいました。やがて窓が割れました」

とっさにステファニーは毛布で子供たちを包み込み、上から子供たちをしっかりと抱いて覆いかぶさりました。

その直後、家がまさに文字通り、土台から持ち上げられる様子をステファニーは目撃しました。

Goderich Tornado

嵐は約280キロの風速で、通過する先々の全てを破壊し尽くしていきました。そしてまるでスローモーションのように、大量の鉄骨が自分たちに向かって落ちてくるのが目に入ったといいます。

「子供を守らなければ」

ステファニーの脳裏にはその思いしか浮かびませんでした。

「煉瓦や石に覆われていたものの、自分だけ脱出して鉄骨など資材の落下から免れることは可能でした。でもそうすれば子供たちの真上に資材が降り注いでしまいます。『子供たちを守るためなら両腕を失っても構わない』そう思いました」

直撃した全長約6メートルの鉄材の直撃を受け、ステファニーの両脚は完全に砕かれました。

Settles Bridge (4 of 26) steel beams

その直後、二つ目の竜巻が瓦礫を巻き上げ近づいてきました。最初の竜巻で家が吹き飛ばされ、3人はより無防備な状態にありました。ステファニーは小さな娘が吹き飛ばされないよう、娘の上に必死で覆いかぶさり凌ぎました。

ステファニーは肋骨を8本骨折し肺に穴が開き、両脚を失いましたが、子供たちは無事でした。

ステファニーは重傷を負っており、日常生活に戻るまでには長い道のりになると想定されました。しかし、あの状況で子供たちはほぼ無傷。全員の命が助かったことは奇跡的なことでした。

長期間の入院生活の後、最先端の義足のおかげでステファニーは完全復活に向けて順調に進むことができました。

竜巻の被災から数年後、ステファニーは負傷した子供や家族の医療治療費と心的外傷からの回復を支援する救済基金Stephanie Decker Foundationを設立しました。同時にアメリカ国内を巡り被災者の激励の活動を開始しました。現在、義足で不自由なく動き回ることのできるステファニーですが、もしあの地下室での悪夢の竜巻被災を再び体験することになったとしても、また迷いなく身を挺して子供たちを守ろうとするだろうと述べています。

ステファニー一家は壊滅した家を再建することはなく、代わりに15分ほど離れた近くの町に移り住みました。ステファニーの勇気ある咄嗟の行動が子供たちとステファニー自身の新たな生活を今まで以上に意義深いものにしています。

毎日を意欲的に前向きに生きるステファニーの姿には大いに勇気付けられます。

緊急事態に子供を守るため、ときに親は信じがたいほどの強靭な力と不屈の精神を発揮します。子供の無事に引き換え、大きな代償を払うことになったステファニーですが、そんな彼女の見事な生き方は母親としてのお手本の一例でもあります。