「ソーセージの悲しい最期」何気ない餌やりが自然に及ぼす危険

北海道の知床は国立公園でもありながら世界自然遺産にも指定されており、恵まれた美しい風景や生態系を見に国内外から絶えず多くの観光客が訪れます。 人の手が入らない雄大な原生林が多くの野生動物を育み、そのなかには海道を代表する野生動物である「ヒグマ」も含まれます。しかしここ数年、このヒグマの市街地出没が増加の傾向にあり、保護地区とは言え、人に害をもたらす個体は残念なことに駆除されてしまうこともあります。

2016年、Twitterユーザーの川Φ(@takeshikawanaka)さんが紹介した知床のあるヒグマの物語は大きな反響を呼びました。「ソーセージの悲しい最期」と題されたこの文章は、知床の保護管理活動を行なっているNPO「知床財団」が作成したチラシに紹介されていたものです。私たち人間が自然に及ぼす影響に対して警告を発する内容になっています。

「コードネーム97B-5、またの名はソーセージ。初めて出会ったのは1997年秋、彼女は母親からはなれ独立したばかりだった。翌年の夏、彼女はたくさんの車が行きかう国立公園入口近くに姿を現すようになった。その後すぐ、とんでもない知らせが飛び込んできた。観光客が彼女にソーセージを投げ与えていたというのだ。それからの彼女は同じクマとは思えないほどすっかり変わってしまった。人や車は警戒する対象から、食べ物を連想させる対象に変わり、彼女はしつこく道路沿いに姿を見せるようになった。そのたびに見物の車列ができ、彼女はますます人に慣れていった。

 我々はこれがとても危険な兆候だと感じていた。かつて北米の国立公園では、餌付けられたクマが悲惨な人身事故を起こしてきた歴史があることを知っていたからだ。我々は彼女を必死に追い払い続け、厳しくお仕置きした。人に近づくなと学習させようとしたのだ。しかし、彼女はのんびりと出歩き続けた。

 翌春、ついに彼女は市街地にまで入り込むようになった。呑気に歩き回るばかりだが、人にばったり出会ったら何が起こるかわからない。そしてある朝、彼女は小学校のそばでシカの死体を食べはじめた。もはや決断のときだった。子供たちの通学が始まる前にすべてを終わらせなければならない。私は近づきながら弾丸を装填した。スコープの中の彼女は、一瞬、あっ、というような表情を見せた。そして、叩きつける激しい発射音。ライフル弾の恐ろしい力。彼女はもうほとんど動くことができなかった。瞳の輝きはみるみるうちに失われていった。

 彼女は知床の森に生まれ、またその土に戻って行くはずだった。それは、たった1本のソーセージで狂いはじめた。何気ない気持ちの餌やりだったかもしれない。けれどもそれが多くの人を危険に陥れ、失われなくてもよかった命を奪うことになることを、よく考えてほしい。」

Ussuri Brown Bear - 07

クマが人里に出てくるのは、餌やりやゴミの不法投棄などによって人間は餌をくれるものとクマが認知してしまうためなのです。一度人の食べ物の味を覚えたヒグマは、人から食べ物を奪おうとしたり、車や家屋の中に侵入するようになります。知床財団は、ヒグマに餌を与えないよう知床を訪れる人々に訴えています。また、財団では、こういったクマと人との接触事故を避けるため、ゴム弾などを発射するなどしてクマを人のいるエリアから追い払う活動も行なっています。止む終えない事態になってしまうのをできる限り防ごうとしているのです。

しかし、野生のクマを恐れずに餌付けする観光客がいつまでたっても後を絶たないといいます。子連れでクマに近づく人や、接近して写真撮影をする人までいるそうです。ソーセージの物語にあえてショッキングな表現手法が取られたのは、こういった自然保護に対する意識が低い人間側への強い対応が必要と考えられたためだそうです。

知床ではここ数年、「クマ渋滞」と呼ばれる現象まで起きるようになっています。これは、道路脇に現れたヒグマを見ようと観光客が車から降り、放置された車が連なって交通の妨げとなるというものです。普段見ることのできない野生動物に出会い、つい気を引いたり、餌をやってみたくなってしまうのも分かります。しかし、クマは猛獣で可愛いペットではありません。餌やり行為は、自ら、そしてクマにも命の危険を招く恐れがあるのです。

ヒグマ遭遇(知床) Ezo Brown Bear!

知床に生息する野生のヒグマは、知床の特異な生態系を支える重要な役割を担っている大変貴重な生き物です。地元のハンターに知床の罪の無いヒグマたちを射殺させてしまうような、そんな悲劇が起こらぬようにするためにも、私たちには、野生動物に対する根本的な意識改革が必要なのかもしれません。野生動物には絶対に餌をあたえないで下さい。クマに遭遇した場合は十分に距離を取り、決して車から降りたり、近寄ったりしないでください。

「世界遺産化により観光客が増え自然が荒らされる」とよく言われますが、ここにもまた、心ない観光客によって残すべき宝が少しずつ破壊されている悲しい現実があるのです。

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