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行方不明の若者をフィーチャーして話題となったミュージックビデオ「ランナウェイ・トレイン」 映し出された若者たちのその後

米国のロックバンド「ソウル・アサイラム」は1993年に「ランナウェイ・トレイン」(Runaway Train) という曲でグラミー賞 最優秀ロック・ソングを受賞しました。このミュージックビデオは衝撃的な映像で話題になったので、記憶している方もいるかもしれません。

PVの冒頭でまず「アメリカのストリートから100万人以上の子どもや若者が消えている」というテキスト。そして行方不明の子どもたちの写真と名前を次々に映し出されます。PVの終わりには「この子たちの誰かを見たら、もしくはあなたがこの子自身だったら、この電話番号に電話してください」とボーカルのデイヴ・パーナーが呼びかけるという構成でした(こちらでそのPVをご覧いただけます)。

バンドはこのPVのために、全米失踪・被搾取児童センター(National Center for Missing & Exploited Children)と契約を結びました。契約内容はこうです。「行方不明の子どもたちの写真を使用するが、その子どもたちが見つかったら、その子の写真を別の行方不明者のものと置き換える」そのため、この曲のPVは、アメリカだけで異なる3バージョンがあり、カナダ、イギリス、オーストラリアにも各国のバージョンが作られました。

この人物がソウル・アサイラムのボーカルでこの曲を作ったデイヴ・パーナーです。

アメリカでは1980年代から行方不明の子どもの写真が牛乳パックの側面に掲載され、多くの事件の解決に貢献しました。デイヴ・パーナーはこの牛乳パックにヒントを得て、自らのバンドのPVで社会貢献ができるのではと考えたそうです。

MTVでヘビーローテーションされたPVの影響力は大きく、米国の3バージョンに映っている36人の行方不明者のうち26人が見つかったそうです。しかし、残りの子どもたちは現在も消息不明か、事件に巻き込まれていました。その子たちの「その後」について、この記事でご紹介しましょう。

1. アンドレア・ダーラム:消息不明

1990年2月1日、当時13歳だった彼女は、アメリカ・フロリダ州フォートウォルトンビーチの町から跡形もなく姿を消しました。当局は当初、家出だと考えていましたが、現在では何らかの事件により姿を消したと考えられています。しかし、実際に何が起こったのかはまだ明らかにされていません。

2. オーンドリア・ボーマン:殺害

オーンドリア・バウマンが最後にミシガン州ハミルトンの自宅で目撃されたのは14歳の時、1989年3月11日でした。彼女に何が起こったのか、長い間、誰にもわかっていませんでしたが、2020年1月、生後5ヶ月のときに彼女を養子にした養父デニス・バウマンがアウンドリア殺害を自白しました。そして、2020年の春、デニスの所有地にある小さな「墓」で彼女の遺体が発見されました。デニス・バウマンは殺人、子どもへの性的虐待、手足の切断などの罪で2020年に刑務所に収容されました。

3. バイロン・ペイジ:消息不明

1992年1月29日、ロサンゼルスに住んでいた17歳のバイロン・ペイジは、足繁く通っていたミュージックストアに行く途中に姿を消しました。店員はその日、店でバイロンを見ていません。彼は大学の奨学金を得るための試験に合格し、翌日には運転免許試験を受けることになっており、家出の理由もありませんでした。なぜ彼が失踪したのかはいまだに全くわかっていません。

4. クリストファー・カーズ:消息不明

©Wikipedia/Fair use

1990年4月20日、クリストファー・カーズは母親に、頭が痛いから学校に行けないと告げます。母親は彼を家に残して仕事に行きます。午後3時に母親が帰宅すると「お母さん、大事な用事ができました。気分はよくなりました。午後6時 (道に迷うことがない限り)に戻ります。愛してる。クリス」という手紙が残されていました。「道に迷う」という文字に下線が二本引かれていました。クリストファーは家族の車と両親の銃を持って出かけていました。

失踪翌日、家族は、クリストファーからの手書きの手紙を受け取ります。内容は、嘘をついて病気のふりをし、どこかに行き自殺しようと車を持ちだしたというものでした。

翌日、家族の車が約300キロ離れた場所で発見されました。発見場所の付近が徹底的に捜索されましたが、クリストファーの痕跡は見つかりませんでした。

5. カーティス・アンソニー・ハンツィンガー:殺害

当時14歳だったカーティス・ハンツィンガーは1990年5月19日、カリフォルニア州の小さな町ブルーレイクで行方不明になりました。家出と思われていましたが、数年後、別の疑いが浮上しました。殺人です。カーティスは失踪の数日前、家族の友人で当時35歳だったスティーブン・ハッシュから性的虐待を受けていると話しており、母親から警察への通報を促されましたが、通報していませんでした。

代わりに少年はハッシュのところに行き、直接対決を試み、ハッシュに殺害されたのではないかと疑惑がもたれました。結局、ハッシュはダンベルでカーティスを殺した事実を認め、カリフォルニア州道299号線のブルーレイクとコーベルの間に埋められた遺体が発見されました。遺体の上はすでに完全に木の根で覆われていたそうです。2009年、ハッシュは11年の禁固刑を言い渡されました。

6.  ウィルダ・マエ・ブノワ:消息不明

©reddit/blitzballer

14歳のウィルダ・ブノワが最後に目撃されたのは、1992年7月23日、ルイジアナ州クレオールにある彼女の両親の家でした。彼女も家出と考えられていましたが、家族はそれを否定していました。しかし、2003年にウィルダの継母がSNSで「もしウィルダ・メイがこれを読んでいるのなら、父親が最近は酒を飲んでいないことを彼女に知らせたい」と書いたため、多くの人が彼女が貧しい家庭環境から逃げだしたのだろうと考えています。彼女はフロリダに行ったのではないかと考えられていますが、裏付けとなる証拠はありません。

7.  ポリー・クラース:殺害

©Wikipedia/Fair use

ポリー・クラースの事件は、ランナウェイ・トレインのPVのなかで最も有名になりました。1993年10月1日、12歳のポリーは自宅のパジャマパーティーの最中に誘拐されました。誘拐犯のリチャード・アレン・デイビスは、公園で出会ったポリーに目をつけており、大胆にもポリーの友人2人の目の前で彼女をナイフで脅して連れ去ったのです。

この事件は全米の注目を集め、FBIが捜査するほどの大事件となりました。しかし、捜査はなかなか進みませんでした。実は、事件当日、デイビスは山に車を止めており、ある女性が不審な車が止まっていると警察に通報をしていました。警官はデイビスを尋問していたのです。しかし、当初はこの2つの事件の関連性は疑われず、1ヶ月すぎてもポリーの行方は掴めないままでした。誘拐から2カ月後、警察はようやくデイビスと事件の関連を疑い、彼を任意同行し、犯人であることが発覚。車が止まっていた場所の近くでポリーの遺体が発見されました。デイビスはポリーを強姦した後、絞め殺し、茂みに置き去りにしたのでした。1996年にデイビスは死刑判決を受け、執行を待っています。

8.  トーマス・ギブソン:消息不明

©Wikipedia/Fair use

トーマス・ギブソンが消えた時、彼は2歳でした。最後に目撃されたのは、1991年3月18日、オレゴン州アザレアにある自宅の前庭で遊んでいました。トーマスの父、ラリー・ギブソンは失踪当時ジョギングをしていましたが、彼の所有地をうろついている野良猫を撃つために拳銃を持っていました。警察の調べに対し、ラリーは、トーマスの近くで猫を撃ったが外れたこと、45分後にジョギングから戻ったときにトーマスがいなくなったことを知ったと証言しました。その後、彼の4歳の娘が、身元不明のカップルが車でトーマスを誘拐するのを見たと証言し、大規模な捜索が開始されましたが、しばらくしてラリーは捜査を中止するよう求めました。

捜査当局は、トーマスが遊んでいた場所の近くで死んだ猫を発見しており、ラリーが猫を撃った弾丸が猫の体を貫通してトーマスに当たったのではないかと考えていました。そして、これに気づいたラリーが息子の遺体を埋葬したのではないかという疑いましたが、ラリーはこれを真っ向から否定しました。

迷宮入りするかに見えた事件でしたが、1994年、離婚したラリーの元妻と娘はトーマス失踪に関する最初の証言を撤回。娘は父親がトーマスを撃ち、ビニール袋に彼を入れて走り去ったのを見たと証言しました。1995年、ラリーは過失致死罪で起訴されましたが、現在も事件への関与を否定しているため、1996年に釈放されました。トーマスの遺体は発見されていません。

9. エリザベス・ワイルズ:帰宅

最後に、無事に家に帰ってきた若者をご紹介しましょう。エリザベス・ワイルズは「ランナウェイ・トレイン」のPVをきっかけに帰宅し、家族と和解しました。

エリザベスはボーイフレンドと同居するために16歳の時に家出しました。彼女はMTVでソウル・アサイラムのミュージックビデオを見て、再び母親と連絡を取り、数週間後に飛行機で帰国しました。ミュージックビデオの公開後、最初に見つかったのがエリザベスでした。

10. その他:

©YouTube/Soul Asylum

他にはその後の情報を見つけるのが難しいケースもあります。 

  • ヘザー・リー・ヤグル:42歳で逮捕されたと言われていますが、これが本人かどうかは不明です。
  • ミッシェル・アン・ファーリー:ソウル・アサイラムのコンサートに行き、PVのおかげで家に帰ったせいで「人生が台無しになった」と冗談めかして言った少女がミッシェルだと言われています。
  • エミリー・タマラ・ポワ (写真):生存していると噂されていますが、それ以上のことはわかっていません。

上にご紹介したように、悲しい結末に終わった事件もありましたが、このミュージックビデオは、多くの家出した若者たちと家族の再会に貢献しました。

音楽の力で行方不明者を捜索するという全く新しい方法を提示した「ランナウェイ・トレイン」は、四半世紀の時を経て、2019年、他のアーティストたちによりリメイクされています。リメイク版のミュージックビデオには、オリジナル版の精神を受け継ぎ、現在行方不明となっている子供たちに関する情報が映されています。

プレビュー画像: ©YouTube/Soul Asylum