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【公式】オバQの後日譚がやたら切ない

藤子不二雄と言えば、言わずと知れた日本を代表する漫画家コンビ。1987年にコンビを解消するまでこの名称で活動し、その後はそれぞれ藤子・F・不二雄藤子不二雄Aと名乗り、ソロでの作品も数多く発表しています。

少年漫画の新時代を切り拓き、多くの子どもたちに夢や希望を与えてきた二人。藤子・F・不二雄は「パーマン」「ドラえもん」「キテレツ大百科」、そして藤子不二雄Aは「忍者ハットリくん」「怪物くん」「笑ゥせぇるすまん」などのヒット作が特に知られていますよね。

しかし解散する前の藤子不二雄名義で描かれた作品は実はさほど多くはありません。2人で共同で描かれた作品として、一番よく知られているのは、なんと言っても「オバケのQ太郎」ではないでしょうか。

ごく普通の家庭に住み着いた、ちょっとドジなオバケのQ太郎(オバQ)と騒動に巻き込まれる周囲の人々を描いた軽妙なトーンの作品で、この作品のヒットにより、「藤子不二雄と言えばギャグ漫画」と広く認識されるようになりました。

この「居候」の設定をさらに発展させたものが、藤子・F・不二雄の「ドラえもん」と言うことができるでしょう。

 

ドタバタな楽しいコメディタッチで描かれていたこのオバQですが、実は連載が完結してから、藤子・F・不二雄が後日譚として発表していた作品があったことをご存知ですか?

その名もズバリ、「劇画・オバQ」。

Q太郎が、居候していた大原正太(正ちゃん)と15年ぶりに再会する日を描いたエピソードです。こう聞くと、2人が再会を懐かしむ感動のエピソードのように聞こえるかもしれません。

しかし…その内容は、私たちの想像を大きく裏切ります。

実際に作品の冒頭をお読みください。

Twitter / doraemonChannel

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劇画の名の通り、かなりリアルなタッチで描かれる本作。

少年だった正ちゃんも、今や立派なサラリーマン。かなりの優良企業に勤めているようですが、子供の時からの友人ハカセから、脱サラして新たな事業へ挑もうと誘いを受けています。

会社からの帰り道、再会したのは正ちゃんに久々に会いにやってきたオバケのQ太郎。

15年ぶりの再会を、二人は手放しで喜びます。

正ちゃんは自宅のマンションへQ太郎を招き、積もる話に花を咲かせます。この年月の間に、誰が亡くなったとか、誰が海外に行ったとか、そんな話です。

正ちゃんは結婚していました。Q太郎の、知らない女性です。けれども、Q太郎のことを歓迎してくれました。

(正ちゃんには良い雰囲気の幼馴染、よっちゃんがいましたが、どうも結婚相手はよっちゃんではないようです)

Q太郎は昔のように、正ちゃんの住まいにしばらくお世話になることにします。けれども夜、夫婦の会話を聞いてしまうのです。

「毎食(ごはん)20杯でしょ、マンガならお笑いですむけど現実の問題となると深刻よ」…そう愚痴を言う妻。子供のように振る舞うQ太郎を、正直、疎ましく思っていたのです。

まぁ、そんなもんかと、気を取り直して、久しぶりに街を散策してみたQ太郎。しかし、Q太郎が生まれた雑木林はゴルフ練習場に、正ちゃんの家はマンションに変わっていました。長い年月で、すっかり街のありようは変貌してしまっていたのです。一抹の寂しさを覚えるQ太郎。

その後、正ちゃんの幼馴染たちとも再会を果たしたQ太郎。みんなで同窓会を開こうという話になります。

そして同窓会に集まった正ちゃんの幼馴染たち。それぞれ立派に成長し、堅実な職業に就いていました。しかし、ハカセ(冒頭で正ちゃんに事業を持ちかけた幼馴染)だけは夢を追って、リスキーなビジネスに挑戦し続けていると言います。他の幼馴染たちも、ハカセからの事業の誘いを断り続けていたのです。

そんな噂のハカセは途中から宴会に参加してきて、みんなでお酒を飲んで思い出話に花を咲かせます。宴もたけなわの時、ハカセは一枚の旗を取り出します。それは、かつて子供時代に、子供だけの「王国」を作ろうとみんなで一致団結していた時のシンボルでした。

その時、正ちゃんと幼馴染たちは気づくのです。いつの間にか、社会の歯車になりさがり、子供時代の心を忘れてはいないだろうか。今こそ、子供の頃の心を取り戻すべきなのではないだろうか。

子供時代のように、再び旗の下に集い、一致団結する幼馴染たち。

そして正ちゃんは会社を辞め、少しリスキーでも、ハカセと一緒に新規事業に乗り出す決心を固めたのです。

翌朝、二日酔いで目覚めた正ちゃんに、「会社を辞めることは奥さんに告げたのか」と詰め寄るQ太郎。「ああ、そうか」と妻の方へ歩み寄る正ちゃん。しかし、妻は正ちゃんにそっと耳打ちするのです。

「子供ができたの」

大喜びする正ちゃん。喜び勇んで、こうしてはいられない、もっと精を出して働かなければと背広に身を包んで会社へ出勤していきます。

まるで昨日の新しい冒険に乗り出す誓いなど、忘れてしまったかのようでした。

もうそこに少年の頃の正ちゃんはいないのだと悟ったQ太郎。

「そうか、正ちゃんに子供がね…と、いうことは…正ちゃんはもう子供じゃないってことだな…な…」

そう呟くと、オバQは何も言わずに、オバケの世界へ去っていくのでした。その隣では、あの時の「旗」が、風に吹かれて舞っていました。

控えめに言っても切なすぎる…藤子・F・不二雄は、どんな気持ちでこの作品を描いたのでしょうか?

想像力豊かな世界観で、子どもたちに夢や希望を与え続けた藤子・F・不二雄。しかし同時に、「いつまでも子供のままではいられないんだよ」…そんな過酷な現実も伝えることが、子供たちに対する自分の使命とも感じていたのかもしれません。

この異色作は今もカルト的な人気を誇っており、現在は小学館文庫「ミノタウロスの皿」または藤子・F・不二雄大全集「SF・異色短編 1」に収録されています。

文章だけではこの作品の魅力を伝えることは不可能です。少しでも心に響くものを感じたのであれば、実際に手に取って、読んでみてはいかがでしょうか?

プレビュー画像:  / © Twitter/ doraemonChannel