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見ず知らずの他人の思いやりがドイツ人旅行者の命を救う

日々の生活の中での数々の出会い。何気なく知り合った人が後に自分にとって大切な存在になる、または出会いがきっかけで自分の運命が大きく変わる、そんな体験をしたことのある人は決して少なくはないはずです。

ミュンヘン出身のドイツ人女性カタリナ・グリュヌ(34歳)もそんな出会いを経験した一人です。

アメリカ西海岸を冒険旅行中に出会った一人の見知らぬ女性に命を救われることになるのです。

カナダからメキシコの国境まで、アメリカ西海岸を南北に縦走するパシフィック・クレスト・トレイルはアメリカでも人気の長距離自然歩道です。ハイキングコースとしてハイカーに親しまれているものの、全長4270キロメートルにも及ぶ自然歩道のほとんどが北米山脈の険しい大自然を通るものであり、容易い道のりではありません。長距離自然歩道の全区間を1シーズン6ヶ月以内に歩き切る「スルーハイキング」にこれまで多くのハイカーたちが挑んできました。狼や熊の生息する自然豊かな山岳地帯を抜ける全区間を1シーズン内に歩き切ることができる成功者はわずか6割。忍耐と体力が問われる過酷なチャレンジです。

カタリナはこのスルーハイキングに挑戦、パシフィック・クレスト・トレイルの制覇を狙 っていました。その長い登山行程の中で、他のハイカーグループに加わったりしながら順調に区間を進めていきました。そしてゴールまでわずか300キロとなった地点でカタリナは地元出身のナンシー・アベルに出会いました。2人は途中までハイキング区間を一緒に歩くことにします。

悪天候のなか、グレーシャーピーク山頂を目指しているとカタリナから聞いたナンシーは不安を覚えます。グレーシャー山は標高2,285 m、険しい頂で知られる成層火山。この地域で生まれ育ったナンシーは、不安定な天候下での火山地帯の登山がいかに危険かを熟知していました。予定を変更するか、せめて天候が回復するまで待つよう、ナンシーはカタリナを説得しました。

Facebook/CBS Evening News

「ドイツから来てこの山岳地域に馴染みのない彼女は、グレイシャーピークが天候次第ではいかに険しい山に変貌するかを理解していませんでした」とナンシー。

ナンシーにとって、カタリナが雪山登山に相応しい服装でなかったことにも大きな懸念材料の一つでした。

「もし私の娘だったら、あんな不十分な装備での悪天候下の登頂は絶対に止めたでしょう」

しかしすでに目標の道のりのほとんどを歩ききり、ゴール間近となっていたカタリナは予定を変更しようとはしませんでした。そしてその判断が後に深刻な事態を招くことになります。

約2時間一緒に山岳コースを歩いた後で2人は別れ、ナンシーは家路につきカタリナはゴールに向け残りの道のりを進みました。しかし、帰宅してもナンシーはカタリナのことがずっと気がかりでした。地域一帯の天候は日を追うごとに悪化し、ナンシーの不安は募るばかりでした。出会いから7日後、心配でいても立ってもいられなくなったナンシーは山岳救助隊に連絡、若いドイツ人女性の安否確認を依頼します。カタリナの目撃情報が得られないことから、事態を重く見た救助隊はヘリで捜索活動を展開しました。

Facebook/CBS Evening News

その当時、カタリナは実際に危機的状況にありました。悪天候で寝袋と衣類がすっかり濡れてしまい、食料も尽きてしまったのです。体温の低下だけでなく脱水症状も起こし、猛吹雪の中で必死に助けを求めましたが、登山者は他に誰もいませんでした。絶望と恐怖の中、死を覚悟したカタリナはドイツの家族にWhatsAppでメッセージを送りました。登山を甘く見ていたこと、そのせいでこうした命の危機を招く状況に陥ってしまったことを詫びる内容でした。

しかし直後、奇跡的にカタリナは救助隊に発見されます。

誰が自分の捜索救助を依頼したのか知ったカタリナはナンシーに深く感謝しました。

「私は彼女の忠告を聞き流してしまったのに…彼女の思いやりの心に救われたのです」

こちらから動画を視聴できます(英語音声のみ): 

自然の脅威を軽く見ていたカタリナ。低体温症と軽度の凍傷で済んだのは不幸中の幸いだったと言えるでしょう。

見知らぬ登山者の姿に娘を重ねたナンシーの慈愛のおかげで命拾いしたカタリナ、今後も恩人と末永く親しい付き合いを続けていきたいと願っているそうです。