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ジーンとくる話

動物に近づくいた獣医は、悪臭に気づいた。頭部の傷を見たとき、すべてを理解した。

アフリカ、ジンバブエの野生動物保護団「AWARE」の創設者として、野生動物とその生息地の保護活動に従事する獣医のリサ・マラビーニの元に、ある日重傷を負った象がいるとの緊急連絡が入りました。

Facebook/Aware Trust Zimbabwe

リサはパートナーのキース・ドゥットロー獣医師とともに、現場へと駆けつけました。「象の頭部には銃で撃たれたような傷がありました」リサは説明します。

しかし危険な場所に傷を負いながらも、プリティ・ボーイと名付けられたその象が、非常に落ちついていることにリサとキースは驚きました。そればかりか、プリティ・ボーイは人の気配に気づくと、自ら歩み寄り助けを求めてきたのです。

診察をしてくれとでも言うかのように自分から車に寄ってきてくれました」

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離れた場所から麻酔銃を撃ち、鎮静剤が効くのを待ってから診察を開始しました。

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プリティ・ボーイの頭部の傷はやはり銃弾によるものであることがわかりました。

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レントゲン写真が撮影されると、頭にまだ銃弾が残っていることが判明します。銃弾は頭蓋骨に亀裂を生じさせただけでしたが、数センチ上に命中していれば致命傷になっていたでしょう。

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傷口はひどい感染症を起こしていました。灰色に膿み、腐臭がする傷口から、獣医たちは骨の破片を摘出し、抗生物質と寄生虫駆除薬を投与しました

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プリティ・ボーイは、肩にも銃による膿瘍があり、銃撃した犯人は心臓を狙ったと考えられました。また、傷から摘出された弾丸が、大きな動物を殺傷することはできない小さなものだったため、プロのハンターの仕業ではないことが推測されました。

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数時間後、目を覚ましたプリティ・ボーイは満足げに木にもたれてうたた寝を始めたそうです。完治するにはしばらくかかりますが、経過は順調だとリサは説明しています。

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リサは、プリティ・ボーイの穏やかさに終始驚いていました。プリティ・ボーイの体には、過去に撃たれたことによる古傷が他にもあり、人間からひどい目に遭わされてきたことが伺えました。それにも関わらず、助けてくれたリサやキースに対してはリラックスした穏やかな態度で接してくれたのです。

「野生の象のすぐ側でこんなに安心していられたのは初めてで、攻撃的な雰囲気は少しも感じませんでした」

人間に撃たれながらも人間に助けを求めに来たプリティ・ボーイの行動から、象が非常に高い知能を持っている動物だということがわかります。象は人間を見分けることができ、危害を加えた人間も忘れなければ、優しく接してくれた人間も忘れないのだそうです。

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今後は術後の経過を見守りつつ、必要に応じて追加の治療が行われるそうです。

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象牙目当ての密猟者による象の乱殺は絶えません。アフリカ諸国は史上最悪の象牙密猟問題を抱え、アフリカ象の個体数の急激に減少しています。

保全対策の一つとして、各国で行なわれている象牙の国内市場閉鎖を求める動きがあります。2015年10月に南アフリカで開催されたワシントン条約締約国会議は、象牙の国内市場を閉鎖するよう各国に求める決議案を採択しました。これに対し、日本政府は「密猟と日本の市場は関係がない」として、日本は閉鎖の対象外との認識を示しています。国内での取引を容認するものは条約の規制発効前などに入手したものに限る方針を示しているものの、象牙取引をめぐり、今後日本が世界的な批判にさらされる可能性もありそうです。

日本では印鑑の材料や装飾品などに利用されている象牙は、日本人にとっても身近な存在と言えます。しかし、合法象牙と違法象牙を区別する以前に、商品にされる命のことを意識することが重要だという意見は普段あまり聞きません。

象牙需要があるかぎり、象牙目当ての密猟は続けられるでしょう。そう遠くない日にアフリカ象の絶滅を招く可能性もあるのです。