ジーンとくる話
チンパンジーは、女性がしたことを忘れていなかった。そして18年ぶりの再会を果たす。
アメリカの環境活動家リンダ・コーブナーは長年、動物保護活動に従事してきました。23歳の頃、リンダは当時まだ学生ながら、6頭のチンパンジーを動物実験場から解放するという革新的なプロジェクトを率いていました。
実験に使われなくなった動物は、殺してしまうのが当時の慣例。実験施設で不要となった動物たちを引き取り、少しでも自由と尊厳を取り戻せるよう、屋外の広大な保護区域での飼育をしようと懸命な活動を続けました。
実験施設で生まれたチンパンジーたちは、生まれてからずっと檻の中で過ごしてきたため、残念ながら自然に返すという選択肢はありませんでした。また、メスの一頭は病に冒され、定期的な治療も必要でした。
それでも、チンパンジー6頭が怯えながらも、初めて新鮮な草の匂いを嗅ぎ、自由に動けるようになったのを見たとき、リンダの胸には喜びがこみ上げできたといいます。
リンダはそれから数ヶ月に渡ってチンパンジーたちの世話を続け、病気のメスに餌をあげ、檻の外での生活に慣れられるよう、たくさんの時間を一緒に過ごしました。
しかし別れの時がやってきます。
チンパンジーたちは人間の力を借りずに生きる術を、自分たちで習得しなければならなかったためです。リンダは後ろ髪引かれながらも、達成感を胸に大学へと戻りました。
リンダが始めたこの解放プロジェクトは、後に大きな成功を収めます。数年をかけて、保護区内のチンパンジーは繁殖し、群れを形成し、新しい仲間が加われば、お互いの回復を助け合うようになったのです。
リンダが再びこの保護地区を訪れ、チンパンジーたちと再会を果たしたのは、それから18年後のこと。再会するのはかつてのかわいい友人ではなく、力強いあごと鋭い歯を持つ半野生の生き物だということは十分に理解していました。
リンダが助け出した6頭のうち、まだ生きていたのはドールとスイングという2頭のメスでした。リンダはドールとスイングのことを片時も忘れたことはありませんでしたが、まさかこの2頭も彼女のことを覚えているとは、夢にも思っていませんでした。
リンダは、保護区域の境界にある小川に近づき、チンパンジーが挨拶に使う声を発します。
リンダはすぐにドールとスイングを見つけ、2頭も水辺の反対側に立っている人間に気づきます。
ボートに乗って近づくと、2頭のチンパンジーがリンダの元に駆け寄ってきました。
「覚えているの?」リンダは岸に近づきながら問いかけます。
すると思いがけないことが起こりました。
チンパンジーが腕を伸ばし、リンダを引き寄せて抱きしめたのです。
ドールとスイングは、この女性が何年も前に自分たちを助け出してくれた人だということをわかっていました。
18年もの時が過ぎても、リンダとチンパンジーの関係は何も変わっていなかったのです。
話すことができなくでも、ドールとスイングがリンダに深い愛情を抱いているのは明らかでした。
人間と動物がお互いの関係をここまで築くことができたことに感動したとリンダは言います。
再開の様子は、こちらからご覧ください。(英語音声のみ)
チンパンジーは生理的、遺伝学的に人間に近いため、医学研究に使用されてきました。倫理的な立場からの批判は多く、日本でもチンパンジーの外科的医学実験は2006年に終了しています。しかし、国内で飼育されている数百頭の内、3分の1余りは今も実験研究施設に収容されているそうです。
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