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えらい

ハリウッドの監督たちはこぞってこの日本のアニメ監督の逝去を追悼した その理由を知って胸がアツくなった

2010年8月24日。

ある一人のアニメーション映画監督の訃報が、世界中を駆け巡りました。

その名も、今敏(こん さとし)。享年46歳、死因は膵臓がんでした。

「千年女優」「パプリカ」などの作品で知られていた今監督。その作品の多くは、夢と現実を渡り歩くような非常に幻想的な世界観を特徴としています。アニメならではのその斬新なビジュアルは、多くのファンを虜にしてきました。

訃報は日本の新聞やメディアなどで取り上げられましたが、しかし海外の反応は思わぬものでした。

アメリカのロサンゼルス・タイムズは、今監督の訃報を顔写真を添えて大きく一面で報道し、ニューヨーク・タイムズも長文を添えてこの悲しいニュースを掲載。さらにアメリカ、タイム誌が発表した「2010年を代表する人」の特集では、その年に亡くなった人として、「ライ麦畑でつかまえて」などで知られるJ・D・サリンジャーなどと並んでこの今監督を大々的に掲載しました。

これらの事実から、今監督が世界から注目を浴びていた監督であると言うのは良く伝わってきます。しかし、それらのメディアよりももっと強く反応を示したのは、同業者であるハリウッドの映画監督たちでした。

真っ先に追悼のコメントを発表したのは、映画監督のダーレン・アロノフスキー監督でした。アロノフスキー監督は「レクイエム・フォー・ドリーム」「レスラー」「ブラック・スワン」などの作品で知られており、日本でも知名度の高い監督です。

アロノフスキー監督は今監督の熱狂的なファンとして知られており、作中でもたびたび、今監督の映画のオマージュのようなシーンが登場します。

たとえば、今監督の「PERFECT BLUE」のワンシーンを実写で再現するために、アロノフスキー監督は「PERFECT BLUE」のリメイク権を買ってしまったなんて逸話があるほどです。(後日その逸話は事実でないことが判明しましたが、アロノフスキー監督は今監督の作品にオマージュを捧げていることを全面的に認めています)

同じように、「ブラック・スワン」でも今監督の「PERFECT BLUE」に影響を受けたのではないか?と思われるようなシーンが頻出します。

主人公が「もう一人の自分」にどんどんと精神を蝕まれていくというそのテーマも重なっています。

今監督の作品に影響を受けたのは何もアロノフスキー監督だけではありません。

「ダークナイト」「インセプション」「ダンケルク」などで知られるクリストファー・ノーラン監督も、間違いなく今敏フリークであり、特にその影響が見て取れるのが、夢と現実が交差する(今監督のオハコ)「インセプション」でしょう。この作品はかなり多くの面で「パプリカ」に影響を受けていると言われています。

実際シーンとシーンを比較してみると、その類似性がよく見て取れるのではないでしょうか。ノーラン監督が今監督の作品からインスピレーションを受けたことはほぼ間違いありません。

(ちなみに「インターステラー」の撮影時は、ノーラン監督は撮影のリファレンスとして日本の写真家である川内倫子さんの作品を参考にしたそうです)

これらが代表的な例ですが、「今監督に影響を受けた」と語る映画監督やアニメ監督は枚挙にいとまがありません。その例としては、CGアニメ「スパイダーマン:スパイダーバース」共同監督のボブ・ペルシケッティや、「新感染 ファイナル・エクスプレス」で知られる韓国のヨン・サンホなどです。

このように世界を魅了した世界観はどのように作り出されたのでしょうか?

武蔵野美術大学出身、もともとは漫画家志望だった今監督は、80年代は「AKIRA」などで知られる大友克洋のアシスタントを務めていました。アニメ業界で仕事をするようになってからもその漫画家としてのスピリットは貫かれており、自ら絵コンテを隅々まで緻密に計算し描いていく姿勢は有名でした。こうして、世界をあっと言わせる作品を作り出していったのです。

完璧主義だったことも原因してか、決して作品の数は多い方ではありません。

「PERFECT BLUE」「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」「パプリカ」といった映画作品、そして「妄想代理人」などのテレビシリーズを発表し、新作「夢みる機械」を準備しているその最中、病に倒れ、そして惜しまれつつもこの世を去ったのです。

たとえば、押井守監督の「攻殻機動隊」「マトリックス」に影響を与えたように、日本のアニメがハリウッドのクリエイターたちに影響を与えることは決して珍しいことではありません。

しかし今監督の残した功績は、そんな言葉で括るのが惜しいほど大きなものです。今監督の残した演出、そしてその作品が、後世のクリエーターたちに影響を与え、脈々と受け継がれていくことを願ってやみません。

プレビュー画像:  / © Pinterest/ myanimelist.net