ちえとくをフォローする

アンビリーバボー

海底の沈没船のなかで62時間生き延びたナイジェリア人船員

たとえ夢でも経験したくないことを現実に経験しなければならなかった人がいます。ナイジェリアのハリソン・オケネに起こったことは悪夢を超えた現実でした。

ハリソンは船の料理人としてタグボート(曳船)に乗船していました。船がナイジェリアの海岸から約32キロ離れた大西洋を航行していたときに大惨事が起こります。

その朝、船員たちが起きて間もなく、大波が船を横転させたのです。船の灯りが消えた時、ハリソンはパンツ1枚でトイレにいました。

「朝の5時頃でした。人々の悲鳴が聞こえ、船が大きく揺れました。誰かが『この船は沈むのか?』と言うのが聞こえました。私はちょうどトイレにいましたが、船が逆さまになり、トイレが頭の上に落ちてきました。『神様、助けて!』と同僚たちが叫んでいました」

転覆した船はあっという間に水で満たされていきます。ハリソンはゆっくりとトイレから這い出ました。3人の同僚が緊急ハッチを開けようとして海に流されていくのが見えました。

当時29歳だったハリソンは、水に浸かったキャビンのなかを必死に通り抜けます。船の上下は完全に反転しており、そのまま30メートルほど下降して海の底に逆さまに落ちました。暗闇の中、ハリソンは奇跡的に6平方メートルのエアポケットがある小さなキャビンにたどり着くことができました。そのわずかな空気でハリソンはひとまずの命拾いをしたのです。

「周りは真っ暗で大きな音がしていました。私は泣きながら神に救いを求めました。絶え間なく祈りました。空腹で、喉が渇き、寒かった。光が見えるようにと祈りました」とハリソンは述懐しています。

この悲惨な状況の中で、ハリソンは同僚の死体が何かに食べられる音を聞きました。沈没船をのなかを泳ぐ肉食魚が、自分の小さなエアポケットを発見したときの恐怖を彼は忘れることができません。しかし、幸い肉食魚はそのまま去っていきました。

もうひとつの不幸中の幸いは、そのキャビンにコーラの缶が数本浮かんでいたこと。また、ハリソンはキャビンにあったベッドからマットレス2枚を引き抜き、氷のように冷たい水の上に浮かべ、その上に乗ることで凍死を免れることができました。

しかし、エアポケットの中の酸素はどんどん減っていきます。外部からの助けがなければ、真っ暗な沈没船から脱出することはおろか、生きて海面にたどり着くこともできないでしょう。仮に脱出できたとしても、ナイジェリアの海岸から数キロ離れた海に浮かぶだけです。

それから60時間以上が経過し、酸欠状態になる直前に、ハリソンは音を聞きます。ダイバーチームが沈没船の点検と遺体の回収に来ていたのです。29歳の彼は、船の壁を懸命にノックしました。そして、ダイバーの懐中電灯の光に向かって泳ぎ、そのシワシワの手でダイバーの腕にそっと触れました。生きている人間を見てショックを受けたダイバーは、生存者がいたことを仲間たちに知らせます。

ハリソンは奇跡的にその船でただ一人助かったのです!しかし、ハリソンの試練はそれだけでは終わりませんでした。深海に長くいたため、減圧室で60時間を過ごし、体内のガス濃度を調整しなければなりません。さもなければ、命にかかわる潜水病を発症する恐れがあります。

深海で3日、減圧室でさらに3日を過ごしたハリソンは、その後、ようやく日の光を浴びることが許されました。まさに奇跡の生還です。

このようなトラウマ的な体験をしたにもかかわらず、ハリソンは今も水を恐れてはいません。3児の父である彼は、現在はプロのダイバーとして活動しています。ダイバーに命を救われたハリソンが、今度は誰かの救助をすることもあるのかもしれません。

出典:theguardian

プレビュー画像:©Facebook/MacacoVelho