ちえとくをフォローする

トリビア

100年前のメルヘンのような本当の話 世界的文豪の小さな優しい物語

これは、今から約100年前の1923年に実際にあった物語。世界的文豪、フランツ・カフカとある少女の間で起こった心温まるエピソードです。


世界中の心温まるエピソードを集めた動画はこちらからもご覧いただけます(記事本文は下へスクロールしてください)。

 


『変身』などで有名なチェコの作家フランツ・カフカは、41歳で亡くなる前年、結核療養のためドイツのベルリンに住んでいました。

カフカとパートナーであるドーラは、ベルリン郊外のシュテーグリッツ公園を散歩しているときに、小さな女の子が泣いているのを見かけました。「どうしたの?」と声をかけると、女の子は泣きじゃくりながら「大切なお人形がいなくなっちゃった」と答えました。

Little girl with a doll stands on a bench

カフカは女の子を慰めようとして、こう言いました。「お人形はいなくなったんじゃないよ。旅に出ただけなんだよ。僕は手紙をもらったんだ」

まだ目に涙をうかべていた女の子は、戸惑いながら「手紙を今持っているの?」と尋ねます。カフカは「手紙は家に忘れてきてしまったけれど、明日持ってくるよ」と優しく答えます。彼は家に戻ると、机に向かって人形の手紙を書きはじめました。

カフカはこの仕事を驚くほどに真剣に受けとめており、絶対に女の子を失望させたくないと感じていた、と後にドーラは語っています。

翌日、カフカは約束通り、公園でその子に会い、人形からの手紙を読んで聞かせました。そのなかで、人形はちょっと気分転換が必要だったから旅に出たのだと女の子に報告し、毎日手紙を書くことを約束しました。

Desk

それから3週間、カフカは人形からの手紙を書き綴り、毎日、女の子に読んであげました。人形は学校に通い、世界中を旅して、色々な人と知り合って成長していきました。

カフカは結末をどうするか思い悩んでいたと言います。女の子が安心でき、筋が通った結末にどうやってたどり着けばいいのか…。文豪が選んだ結末は、人形の幸せな結婚でした。婚約から結婚式の準備まで、手紙では幸せな人形の気持ちが生き生きと描かれたそうです。

「愛する人と結婚することになり、もう元の生活に戻ることはできないの…2度と会えないけれどわかってほしい」と女の子に語りかける人形。でも女の子は別れを受け止めることができるまでに癒されていました。毎日の人形の冒険談に心を踊らせていた少女の心には、もう悲しみは存在していなかったのです。

Black and White Challenge - Day 4

カフカは、見ず知らずの女の子の涙を昇華させるために、何週間も、自分の才能を駆使して見事な作品を作り上げたのでした。

カフカのパートナー、ドーラ・ディアマンは、彼の死後にこのときのことを振り返り、自らの著作のなかでこの逸話を公表しました。ただ、残念ながら手紙と少女は見つかっていません。

Wikipedia/Public Domain

繊細すぎるがゆえに早逝したと言われるカフカ。でも彼の繊細な優しさが、小さな女の子の心を癒した逸話は100年経った今でも私たちの心を和ませてくれます。

プレビュー画像: © Flickr/simpleinsomnia