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トリビア

100年前に初めて披露された人体切断マジックと女性参政権運動の小さな接点

マジシャンが箱の中に女性を入れた後、ノコギリで真っ二つに!観客が悲鳴をあげるなか、女性は無傷で姿を表す…きっと皆さんも見たことがあるでしょう。これはステージマジシャンが演じる最も有名な人体切断マジックです。

この伝説的なイリュージョンが初めて登場したのは、今から約100年前の1921年。英国の首都ロンドンにあるフィンズベリー・パーク・エンパイア・シアターでP.T.セルビット(本名パーシー・トーマス・ティブルズ)というマジシャンが披露したものでした。

第一次世界大戦後、娯楽産業の主流は不気味でセンセーショナルなコンテンツでした。戦争は終わりましたが、日常生活には暴力があふれており、街は決して平和な場所ではありません。そんな激動の時代に生まれたセルビットの「女性をノコギリで真っ二つに切る」というイリュージョンもそのホラー的な演出で観客に大好評を博しました。

当時は「女性の権利闘争」の時代でもありました。セルビットがこの新しいイリュージョンを披露する3年前となる1918年にようやく女性参政権が認められましたが、当初は財産を所有する30歳以上の女性のみが対象でした。

英国の女性参政権を求める戦いは熾烈でした。活動家たちは、何年もかけてデモを行い、法律を破り、警察と街頭で争い、投獄された女性は1000人を超えたと言われます。そんななか、有名な参政権論者の一人クリスタベル・パンクハーストは、過激な行動を起こし、共謀罪で指名手配されていました。しかし、彼女は巧みに姿をくらまし、警察の手から逃れ続けていたため、クリスタベルの写真が消えたり現れたりするおもちゃが人気になるほどだったと言います。

セルビットはこの悪名高い女性活動家を利用したいと考えていました。彼の考えたイリュージョンはこうです。両手両足を縛られた状態でクリスタベルを箱に入れ、衆目の中、彼女がそこからまんまと脱出する。彼がこの計画を公にすると、彼のファンは大いに喜びました。しかし、こうした軽蔑的なジョークに慣れ切っていたクリスタベルは申し出を丁重に断りました。

セルビットの人体切断イリュージョンは評判を呼び、他の多くのマジシャンに模倣されたことは私たちの知るところです。セルビットはその後も女性たちの体を引き伸ばしたり、バラバラにしたりする演出を考案し、商業的に大いに成功。女性の体を使ったトリックは彼のトレードマークとなったのです。

しかし、ここで忘れてはいけないのは、彼のイリュージョン成功の立役者がアシスタントの女性たちだったことです、バリエーションにもよりますが、女性たちは限られた空間の中でアクロバティックに体を歪めたり、ひねったり、曲げたりしてイリュージョンを可能にします。すべては箱の中の女性の仕事にかかっていたのです。しかし、こうした女性たちの名前が公表されることはほとんどありませんでした。主役は常にノコギリを振り回す男性でした。

その後、女性の権利のために闘い続けたクリスタベル・パンクハーストは、1936年に大英帝国勲章デイム・コマンダーの称号を得た後、アメリカに移住しました。セルビットのような人物をできるだけ無視したことが功を奏したとも言えます。

一方、セルビットは、そのトリックでステージマジック界に名を残し、「アメリカン・マジシャンズ協会」の殿堂入りを果たしました。

同じ時代を生き、小さな接点を持つ二人の生涯は、100年前の世相を浮き彫りにしてくれる貴重な逸話ではないでしょうか。

出典: mentalfloss

プレビュー画像:© Facebook/Erix Logan