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ミステリー

【ジェボーダンの獣】世界の獣害事件の中でも一際異彩を放つ、伝説的な獣害事件

日本史上最悪の獣害事件といえば、「三毛別羆事件」が有名ですが、そのほかにも28名の労働者が犠牲になった「ツァボの人食いライオン」、436人以上を殺害したと言われる「チャンパーワットの人食いトラ」のように、事件から100年以上の歳月が経過してもなお語り継がれる害獣事件があります。

しかし、世界の獣害事件の中でも一際異彩を放つ、伝説的な獣害事件があります。

「ジェヴォーダンの獣」。フランス中南部ジェヴォーダン地方でわずか3年のうちに、100名以上、一説には300人以上が犠牲となった謎の獣による襲撃事件です。

ジェヴォーダンの獣について最初に記録されているのが、1764年の6月1日。突然木の上から飛び降りてきた巨大な獣に女性が襲われそうになりますが、運よく近くにいた雄牛の群れに獣が怯み、退散。命拾いします。

しかし同月、森の中で最初の犠牲者の遺体が発見されます。被害者は羊飼いの少女ジャンヌ・ブーレ(14歳)、遺体にはオオカミに襲われたかのような深い傷跡が残されており、内臓を食べられていました。

当時は、オオカミに家畜が襲われることは日常茶判事。大人に比べ体格の小さな子供たちが家畜の世話をしている最中にオオカミに襲われることもあり、当初はさほど重大な事件とは捉えられていませんでした。

しかし、その後も似たような獣害事件が続発。牛などの家畜よりも人間を好んで襲うのか、犠牲となるのは住民ばかり。頭部を食いちぎられていたり、深い傷を負うなど、どの遺体も通常の獣害被害と比べ損傷は痛々しく、害獣の残虐性を物語っていました。

また、オオカミによる獣害に比べるとこの獣は独特な捕食方法で獲物を仕留めていました。通常ならばまず獲物の脚を狙い、負傷させ動きを止めてから喉元に噛みつき息を止めるのですが、獣は執拗に獲物の頭部を狙っており、どの犠牲者の頭部も噛み砕かれるか食いちぎられていたのです。

犠牲者の多くは女性や子供たち。武器となるような鎌や草刈り鎌などを使い、草原で大人数で作業することの多かった男性に比べ、農場で少人数で仕事をしていた女性や子供が獣の標的となりやすかったと考えられています。

記録によると、獣による襲撃事件は計198回、死者88人、負傷者36人とされていますが、他の記録では襲撃事件は306回、死者123人、負傷者51人、中には死者数300人以上との記録もあり、実際の犠牲者数は不明です。

羊飼いたちは単独行動を避け、集団で行動するようになりましたが、獣による襲撃は続き、多くの女性や子どもの命が奪われました。襲撃から生還した者の証言によると、獣は牛ほどの大きさでオオカミのような体格で大きな頭に鋭い牙を持っており、全身が赤い毛で覆われ、尻尾はフサフサ、背中は黒い縞模様だったそうです。

相次ぐ犠牲者に地域住民はすっかり脅えあがり、正体不明の獣を「La Bête(ラ・ベート、フランス語で「野獣」の意味)」と呼んで恐れました。

↓ 「『ラ・ベートの姿』と少女たちを食害したジェボーダンの獣の外見的特徴を紹介する注意書き」

1765年1月12日、増え続ける犠牲者を前に、民間の討伐隊が編成されます。本格的な「獣狩り」が開始されますが、捕まるのは普通のオオカミばかり。1764年から1767年の間に、100頭以上のオオカミが殺されましたが、依然、襲撃被害は止みませんでした。

ジェボーダンの恐ろしい獣の噂はフランス全土に広がり、フランスの王ルイ15世の耳にも届きます。事態を重く見たルイ15世は討伐のため専門の狩猟部隊を派遣。

1765年9月、体長2メートルを超える巨大なオオカミが討伐され、「ジェボーダンの獣を成敗した」と話題になりますが、狼の体毛は目撃談のような赤い毛ではなく灰色の毛。事件集結ムードが漂う中、その年に終わりには再び犠牲者が出てしまいます。

その後も幾度か討伐隊が獣狩りを展開しますが、結局、獣を討伐することはできずに終わります。

獣の襲撃から生還した生存者も多く、中には子どもたちが棒で獣の攻撃を防ぎ生還した話や、銃剣で獣の胸を傷つけて撃退して「ジェヴォーダンの乙女」と呼ばれたマリー=ジャンヌ・バレの話が後世に残されています。

ノルマンディー地方の著名なオオカミハンターが獣退治に派遣されますが、失敗。国王が派遣した討伐隊も成果を上げることなく撤退。1765年12月から1767年6月までの間に新たに30人の犠牲者を出し、地元住民は再び恐怖に襲われます。

討伐に失敗した行政からの支援はなく、もはや地元民が自力で獣退治に乗り出すより他に方法はありませんでした。

1767年6月19日、新たな進展が見られます。地元の猟師ジャン・シャステルが巨大なオオカミを射殺したのです。記録によると、異様に大きな頭を持ち、赤、白、灰色の毛並みをした見たこともないようなオオカミだったそうです。

それ以来、獣の襲撃はパッタリと止みました。

結局のところ、「ジェボーダンの獣」の正体は現在も判明してはいません。記録の残る目撃談から、生息地からヨーロッパに持ち込まれたシマハイエナだったのではないか?という説もあれば、未熟なたてがみを持った若いオスのライオンではないかという説もあります。

神出鬼没で地域一帯を恐怖に陥れた獣。現在のように街灯もなく、夜は闇に閉ざされる時代、地域住民の恐怖は相当なものだったと考えられます。

当時は悪魔やオオカミ男の仕業だと信じる者もいるほど、極度の不安と集団ヒステリーにより、ますます獣の存在は恐ろしい正体不明の怪物のようなものへと一人歩きしてしまったのかもしれません。

約250年前にこの地域を脅かした「ジェボーダンの獣」ですが、現在は地元の観光資源となっています。

出典: history.com

プレビュー画像©︎pinterest/nationalgeographic.fr