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トリビア

こうして飼い主は、知らぬ間にペットを傷つけている

世界中であまりに多くの犬や猫などのペットが心無い人間によって虐待を受け保護施設に収容されたり、最悪の場合命を落としていることは誰もが知っている悲しい事実です。しかし動物は、飼い主の生活習慣やエゴが原因で病気になり命を落とすこともあるのです。

現在ペットを飼っている人も、いつか飼いたいと思っている人にもぜひ知っておいてほしい、動物を苦しめかねない習慣をご紹介します。

Sad dog lying down

動物病理学者の役割

「ほとんどのペットは適切に飼育されていると思いますが、ここ数年でこれまで考えられなかったような原因で命を落とすペットも増えています。知らずのうちに、飼い主の生活習慣が愛するペットを死に追いやっていることもあるのです」そう語るのはドイツ人動物病理学者のアヒム・グルーバー博士です。

グルーバー博士ら動物病理学者は、不審な死をとげたペットや動物園の動物の検死を行うことがあります。特に動物園では、伝染病などの拡大を防ぐためにも検死は重要です。ペットの検死によって、死因は隣人から盛られた毒物だったことが判明、ということもあります。ペットの死に関する疑念を取り払うためにも検死は有効な手段です。

グルーバー博士は、著書『ふわふわペットたちの事件:苦しむペットについての動物病理学者の所見』(原題:”Das Kuscheltierdrama: Ein Tierpathologe über das stille Leiden der Haustiere”)で、ペットとの間違った付き合い方を指摘しています。

多頭飼いの悲劇

グルーバー博士は検死によって飼い主の虐待を明らかにすることもあります。「餌も水もたっぷり置いていったのに、数日留守にしている間に死んでしまった」猫とウサギ合わせて30匹以上が死んだ理由をそう説明する飼い主でしたが、検死によってネグレクトが明らかになりました。

病気や飢えで命を落としたものもいれば、他の猫やウサギに食べられて命を落としたものまでいたのです。この飼い主はもちろん動物虐待で起訴されました。

Austin Community College Vet Tech Program

主な死因

不審な死をとげた動物たちの死因は2つに大別できるそう。不適切な飼育、そして特に犬は過剰な繁殖が死因となることが多いそうです。

不適切な飼育の一例は、犬や猫の肥満です。一人暮らしで動物を飼育する人が増えた結果、飼い主が帰ってくるまでほとんど1日中部屋の中でじっとしているしかないペットも増えているのです。

Bunny in Cage GRPS Grand Rapids Montessori

距離が近すぎるのも問題

でも飼い主と物理的な距離が近すぎるのもペットにとって実は迷惑な話。ペットを家族の一員、人間の代わりとして扱い、食べる時も寝るときも一緒という人も少なくありません。

「一人暮らしの飼い主が増加していますが、ペットだけが心を通わせる存在となることも増え、ペットに大きく感情移入する人も増えています。常に衛生的であれば一緒に寝るのは構いません。しかし不衛生な状態だと、病気を移し合うこともあります」

一緒に寝たり、口移しで食べ物を与えたりすることで、犬や猫から回虫をもらったり、動物から人間にうつる感染症を患うことも。しかもこうした感染症や寄生虫は人間から動物にうつることもあるのです。

Arthur Emlyn sad-face

死を招くキス

人間から動物への病気の感染の例として、グルーバー博士が検死した不審な死を遂げたチンチラの例が挙げられます。検死によりこのチンチラの死は、不可解な脳腫瘍であることがわかりました。チンチラは、野生種は絶滅の危機にありますが、世界中でペットとして大人気の動物です。

不審死を遂げたチンチラの脳腫瘍は、結局人間のヘルペスが感染したことが原因であることがわかりました。そして感染源は、チンチラの飼い主、10歳の女の子だったのです。グルーバー博士が検死結果を報告した時点でも、この女の子の唇にはまだヘルペスが目視できたそう。可愛さ余ってのキスでチンチラを死に追いやっていたのです。

Chinchilla

犬のホルモン異常

人間から予期せぬ災いをもらったペットとしては、抜け毛と睾丸の縮小を患ったオスのロットワイラー犬の例もあります。この犬は、去勢していないにも関わらず精力の衰えを見せ、次第に元気をなくしていったのです。

原因は、なんと飼い主の女性でした。この女性は更年期障害に苦しんでおり、毎晩寝る前に女性ホルモンのエストロゲンクリームを塗っていました。飼い主はいつもロットワイラー犬と一緒に眠っていたので、飼い主の塗っていたエストロゲンクリームがロットワイラー犬にも付着、エストロゲン中毒を起こしていたのです。

治療が開始されると、徐々に被毛が戻り睾丸の大きさも元に戻って行きました。元気も取り戻し、雌犬に対する興味も復活したそうです。

I Exposición Monográfica Club Rottweiler de España -  Santa Brigida -  Gran Canaria.

品種改良による弊害

グルーバー博士がさらに指摘するのは、過剰な品種改良の問題です。外見の美しさや可愛らしさを誇張する交配が進められたために、純血犬は健康に問題を抱えることが多いそうです。

フレンチブルドッグやパグの顔は、年々「鼻はぺちゃんこになり、目も顔の中心に寄り、おでこが高くまん丸の顔」になってきており、人間の顔に近づいているそう。結果的にフレンチブルドッグやパグは「生まれながらに呼吸がしずらく、いつも鼻が詰まったように苦しそうに喘ぎ、体温調節も苦手でストレスや熱に弱く」なったそうです。

こうしてフレンチブルドッグやパグは真夏になると熱射病や疲労で命を落としてしまうものも出てきます。睡眠中に呼吸困難に陥る恐れもあるのです。

sad pug

美しさを追求するあまり

シェパードやコリーなどの大型犬に見られる異なる色や模様が混じった被毛をマーレと呼びますが、ある遺伝子の組み合わせでこのマーレ模様が生まれます。この遺伝子を持った犬は、幼い頃に聴覚を失うことが多いのです。

また、スフィンクスと呼ばれる毛のない猫は品種改良でどんどん毛をなくしており、ヒゲまでないのだとか。これでは暗闇で位置を把握することができず、猫同士でのコミュニケーションも難しくなるのです。

「スフィンクス猫は他の猫よりも人懐っこい」と言う人がいますが、これはまったく間違っています。スフィンクスは毛がないので、寒くて人のそばにやってくるのです。

Willow

グルーバー博士は、著書のなかで「動物は動物らしくいるべき」と結論づけています。共に暮らしながらも、犬や猫、その他多くの動物たちが動物らしくいられる環境こそ、人間と動物双方にとっての本来の幸せなのかもしれませんね。