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えらい

性的搾取被害者の子どもたちを養子にした男性が インドの闇と対峙する

保守的な家父長制度が根強く残るインド。かつての身分制度であるカーストは、都市では徐々に重要性を失いつつあり、公的にはカーストによる差別は許されていませんが、それでも今も社会全体に色濃く影を落としています。特に女性は日常生活全般でカースト差別や性差別を経験しており、カースト下層の女性に対する差別や暴力は深刻です。

カースト下層の貧困層では売春で生計を立てざるをえない女性、そして児童売春を強いられる少女が少なくありません。違法の売春を生業とせざるをえない女性たちに対する偏見や暴力は、表沙汰になることはほとんどないのが現状です。

そんなインドで、女性と子どもの性的搾取と闘い続けている男性がいます。彼の名はアジート・シン。1988年、18歳で大学生だったアジートは、ある結婚式に出席しました。式場にダンサーが現れると、会場からヤジや罵声、聞くに耐えないような言葉がダンサーに投げかけられました。売春も生業としていたこのダンサーに対する招待客の侮辱的な対応にショックを受けたというアジート。「招待客の彼女に対する振る舞いを情けなく思いました」と当時を振り返ります。そして、彼はそう思っただけでなく、驚くべき決断をしたのです。

アジートはそのダンサーと話ができるまで一晩待ちました。そして、彼女に3人の子どもがいることを知ると、その子たちを養子にすることを決めます。子どもたちが学校に行き、自分の将来を選ぶチャンスが必要だと考えたのです。そうでなくては、子どもたちはこの母と同じように性的搾取の対象となってしまう可能性が大きいのです。

そこで、大学で学ぶかたわら子どもたちに勉強を教え始めます。でも、話はそれだけでは終わりません。

結婚式での運命的な出会いから5年後の1993年、アジートは女性と子どもの性的搾取、特に強制売春と人身売買と闘うためのNGO、Guria(グリア)を設立しました。

国連によると、売春に従事する人はインドに約66万人います。これはコンゴに次いで世界で2番目に多い数です。さらに、インドは人身売買や強制労働などで奴隷状態にいる人が少なくとも800万人いると言われています。しかしアジートは、インドの売春従事者の実数は国連の推計よりもはるかに多く、少なくとも300万人、そのうち約40%が未成年で、その75%が人身売買を通じて性労働に入ったと推定しています。

「子どもの人身売買には様々な理由があります」とアジートは説明します。「しかし、根本的な原因は貧困と男女の不平等です。これは社会問題なのです。最も弱い子どもたちが犠牲になり、人身売買されるのはほとんどが未成年者です」

グリアの設立以来、アジートらは約2,500人の子どもたちを性労働から救ってきました。アジートと妻サントワナマンジュ、そして36人のメンバーが、インドの闇と対峙しています。客のふりをして売春宿に潜入して、被害者を救出するなどリスクのある手段を講じることもあります。1日に15人の少女を解放できた日もありました。ギャングなどの犯罪組織の収入源を脅かすとして、アジートや妻のサントワナマンジュは脅迫状がくることもあると言います。

グリアの活動は売春宿からの救出作戦だけでなく、救出された女性や子どもたちが、新しい生活を始めるための支援も行っています。現在6,800人以上の子どもをサポートし、これまでに5,400人に教育を提供し、貧困の悪循環を断ち切ろうとしています。こうした活動により、近年、インドの人身取引の数が減っているという希望の持てる報告もあります。

セックスワークや人身売買による性的搾取は、インドだけでなく、世界的な問題です。実際、日本でも人身取引や児童売春の問題は少なからず存在しています。貧困や男女格差など多くの問題が絡み合った複雑で根深い問題ですが、子どもたちが笑顔で過ごせる社会を実現するために、できる範囲で寄付などの具体的な支援を検討してみるのはいかがでしょうか。

日本でも人身売買を防ぐために活動している団体はあります。そんな人身売買の問題に取り組む団体への寄付をまとめてみました。

プレビュー画像: © Facebook/Guria India