ちえとくをフォローする

おもしろ・びっくり

【イカゲーム】を見て「これカイジとかのパクリじゃん」と思った しかしその制作裏の壮絶さを知って歯が抜けるかと思った

「イカゲーム」を知っていますか?

Netflixで配信されている、韓国産のサバイバルものの連続ドラマです。

ご存知の方もいるかもしれませんが、このドラマが今世界に旋風を巻き起こしています。2021年9月17日に全世界で配信が開始されるや否や、開始28日間で1億4200万世帯が視聴し、Netflixが始まって以来の大ヒットとなっているのです。

圧倒的な視聴数を叩き出しているだけでなく、たとえばアメリカの厳しめ映画レビューサイトのRotten Tomatoesでも94%のレビューを獲得するなど、内容も非常に高く評価されています。

韓国国内はもちろんのこと、世界を今このイカゲームが席巻していると言っても過言ではありません。

イカゲームのざっくりとしたストーリーを言えば、こうです。

多額の借金を背負っていたり、事業に失敗していたり、脱北者だったり、ヤクザに追われていたりと、ワケありの人々456人が孤島に集められ、456億ウォンの賞金を賭けて、お互いの命を取り合うデスゲームに参加させられるというもの。デスゲームと言っても、そのほとんどが、だるまさんが転んだ綱引きなどの、子供の頃に無邪気に遊んで親しんだゲームの数々です。

その刺激的な内容や、追い詰められた人間の心理描写、そしてどことなく現代社会のメタファーのようにも見える社会性のあるテーマが話題を呼び、国境の垣根を越えてその面白さは伝わりました。

事実、制作チームは、韓国だけでなく海外でも作品をヒットさせるという目標を掲げていたようで、例えばビジュアルを簡略化させるなどの工夫で、海外のオーディエンスにも伝わりやすくするように心がけたようです。

例えば敵である謎の組織のメンバーは全員、丸、三角、四角などの記号が描かれたマスクをかぶっており、その顔を見せません。それが不気味さを引き立てると共に、余計な視覚的な要素を排除する助けにもなっているのです。

ところでこのイカゲームですが、ちょっとしたツッコミを日本のオーディエンスから入れられています。

借金を背負った者が、一発逆転を狙い様々なゲームに参加するというそのデスゲームの設定が、まるで「賭博黙示録カイジ」(福本伸行)などの日本の漫画とそっくりだというものです。

確かにカイジも、ひょんなことで友人の借金を背負ってしまった主人公が、命懸けのギャンブルに参加させられると言ったような内容でした。心理戦の雰囲気なども、ちょっとカイジと類似したものがあります。

その他にも、子供の頃に遊ぶゲームがデスゲームに変貌してしまうという設定が、映画化もされた「神さまの言うとおり」(金城宗幸原作・藤村緋二作画)という漫画作品を彷彿させるという意見も出ています。

その他にも「バトル・ロワイヤル」や「LIAR GAME」、「今際の国のアリス」など、イカゲームが参考にしたのではないかと噂されている日本の漫画作品は数多くありますが、そもそもこの手のデスゲーム系のジャンルは、2010年前後に、日本でかなり流行していたような記憶があります。

そのあたりの関連性はどうなっているのでしょうか。

その類似性…ある意味ではその通りであると言うことが、監督本人の口から語られています。

イカゲームのクリエイターであるファン・ドンヒョク監督(50)は、イカゲームの制作の経緯について、インタビューでしばしば日本の作品からの影響を口にしています。

映画監督を志し、ソウル大学(韓国の東京大学的存在)を卒業、その後ジョージ・ルーカスやロン・ハワードを輩出した映画の超名門校・南カリフォルニア大学で学んだファン監督は、学歴的な意味で言えば超エリート。

しかし、映画監督になるための道のりは過酷でした。2008年に起きた世界的な金融危機により、自身の映画の資金調達に失敗してしまったファン監督、高学歴にも関わらず、無職になってしまいました。さらにファン監督の母も会社を退職してしまい、脚本を書くための道具である、ノートPCですら手放さなければならないような状態だったと言います。まさに、経済的どん底でした。

(ちなみに非常に似通った境遇のキャラクターがイカゲームにも登場します)

そんな時、お金がなかったために立ち寄ったソウルの漫画喫茶で出会ったのが、日本のデスゲーム系の漫画作品だったと言います。

「バトル・ロワイヤル」や「カイジ」、「LIAR GAME」などの中に登場する、背水の陣でデスゲームに参加してくる登場人物たちに、自分の姿を重ねることができたのです。

「もしこんなデスゲームがあったら、私も参加するかもしれない…」

そんなことを、真剣に考えていたと言います。

その後、なんとか苦しい時期を脱したファン監督は、その時に考えついた壮大なアイデアをまとめ、映画制作会社にプレゼンし始めました。

けれども、返ってくる答えは全てNO。当然です。こんな規模のデスゲーム作品など、成功の前例がなかった上、莫大な制作費がかかってしまうことが容易に想像できたからです。

けれども、ファン監督はあきらめませんでした。

何度も何度も試行錯誤を重ねた結果、最後にたどり着いたのが、国際的なオーディエンスのポテンシャルと、豊潤な資金力を持つ、Netflixでした。ついに練りに練ったアイデアを、映像化する段階にこぎつけたのです。

しかし企画にゴーが出た後の制作段階も、苦難の連続でした。撮影しながらも新しいアイデアを追加したり、エピソードを修正したりして、肉体的にも精神的にも追い詰められたファン監督。

誰も経験したことがないようなサイズの企画をまとめるのは想像を越えたストレスで、監督はなんと撮影中に歯が6本も抜けてしまったんだとか。

けれども、壮絶な思いを込めてなんとか作り上げた作品の大成功を見て、報われたような気持ちになっているのではないでしょうか。

作品の成功後、インタビューで「イカゲームの成功で、あなたもイカゲームの勝者のようにお金持ちになったのではないですか?」と聞かれたファン監督。

しかし答えはNOです。Netflixは当初の契約通りの報酬を監督に払いましたが、作品のヒットによって追加で発生するようなボーナスは特に今のところはないようです。言うまでもなく、イカゲームの勝者の受け取る報酬…456億ウォンなんて額には、はるかに及びません。

しかし少なくとも、以前のように貧困に窮する必要はなくなりました。今は安心して作品作りに取り組めるくらいの、十分なお金は手に入れることができたと監督は言います。

いかがでしたか?

日本のデスゲームに着想を得つつも、監督が人生を賭けた凄まじい執念で映像化したのがよく伝わってくる作品なのではないでしょうか。

監督は、シーズン2の制作に着手することをすでに発表していますので、興味のある方はシーズン2が始まる前に、Netflixでご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

プレビュー画像:  / © Pinterest/ designtaxi.com