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トリビア

【すさまじい近親婚の果てに…】後編: スペインハプスブルク家最後の王カルロス2世を検死解剖した医師は絶句した

【すさまじい近親婚の果てに…】前編: スペインハプスブルク家最後の王カルロス2世を検死解剖した医師は絶句したの続編記事です

16世代にわたる近親交配の結果、ハプルブルグ一族の濃縮された血をかけ合わせ生まれたカルロス2世。王家断絶の危機を救った「希望の子」として期待を一身に集めたカルロス2世でしたが、あまりにも濃い血縁関係のなかで生まれた彼は重度の奇形に苦しみ、いつしか「呪われた子」と呼ばれるようになります。

4歳まで話せず、8歳になるまで歩くこともままならず、年齢を重ねても知能の成長が見られないことから、宮廷の廷臣らはカルロス2世の教育を諦め、王室の将来のため「王の命を存えさせ、世継ぎを残す」ことを目標に定めます。王になるための帝王教育はおろか、読み書きすらほとんど学ばずに成長したカルロス2世。統治に必要な知識もなく、舌が異常に大きく口から突き出ているため、まともに話すこともできない「お飾りの王」にすぎませんでした。

1979年、フランス国王ルイ14世の姪マリー・ルイーズ・ドルレアンと結婚するものの、極端にしゃくれた顎と突き出た下唇を持ち始終よだれを垂れ流し、まともにコミュニケーションすらとれない夫の姿にマリーは激しい嫌悪感を抱きます。「スペイン王は恐ろしいほどに醜く、病気を患っているようだ」と当時のスペイン駐在のフランス大使が書き残しているほどです。

妻のマリー・ルイーズ・ドルレアンによると「性欲はあまりにも盛ん」だったものの、生まれつき性的に不能で子孫を残すことはできませんでした。後継を産むプレッシャーに絶えず晒されていた彼女は夫の不妊症と夫への強い不快感から重いうつ病を発症。26歳の若さで急死します。

2割増、3割増どころか「大国スペインの君主」として相当に美化されて描かれた肖像画からもカルロス2世の特徴的な「ハプスブルクの顎」が見てとれますが、実際には大きく突き出た顎から異様に大きな舌を常に突き出し、よだれを垂れ流し続ける王の姿は見るに絶えないほどだったとか。

後世の研究によると、大きな頭に痩せた小さな体のカルロス2世は30歳ですでに老人のような見た目で足が不自由、足と腹と顔は常に浮腫んでおり、35歳の時点では完全に禿げ上がってしまっていたそうです。

スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学の研究チームがハプスブルク家を20世代に遡って調査したところ、スペイン・ハプスブルク家の近親婚の近交係数は初代フェリペ1世のときには0.025だった数値が、6代目の末代のカルロス2世では0.254という驚くべき数値となっていたことが明らかになりました。赤の他人同士の間に生まれた子なら、0。親子きょうだい間に生まれた子は0.25であることを考慮すると、驚くほどに高い異常な数値です。

親兄弟間の間に生まれた子供よりも濃縮された血を持つカルロス2世は、劣性遺伝の兆候が心身ともに現れており、長年にわたる近親婚の負の遺産を一身に背負ったかのような悲劇の王でした。

劣性遺伝の影響は知性にも著しく出ており、無気力で周囲の者に関心を示さず、精神障害の症状は年々悪化。ついには後妻を迎えていながら、亡き先妻の墓を掘り起こし遺体を自室に置くなどの奇行に走るようになります。

1700年、カルロス2世は39歳の誕生日のわずか5日前にこの世を去りました。

王の遺体を検視解剖した医師の検視結果には「王の脳は1滴の血液も含んでおらず、心臓はコショウの大きさで、彼の肺は腐食しており、腸は腐って壊疽(えそ)していた。そして石炭のように黒い一つの睾丸を持ち、頭は水でいっぱいだった」と書き残されています。

彼はすでに生まれた時から、死に瀕していたといっても過言ではない」と語る研究者もいるように、長年にわたり繰り返された近親婚により、顕著に受け継がれた劣等遺伝子のしわ寄せを受け、あまりにも病弱に生まれたカルロス2世。当然、子供も残すことができず、スペイン・ハプスブルク家は断絶します。

一族の繁栄を守るため、自然の摂理に逆らった近親婚を繰り返し「高貴な青い血」を求め続けた結果、自ら終焉を招くことになったスペイン・ハプスブルク家。実に皮肉な話です。カルロス2世は近親婚の負の縮図の犠牲者でもあったことを考えると、「呪われた王」と呼ばれた彼の生涯が哀れに思えてきます。

ちなみに、カルロス2世の姉であるマルガリータ王女は同じ両親の間に生まれ濃い血をもちながらも、幸いにも弟のような顕著な劣性遺伝の特徴はみられませんでした。もちろん、特徴的な「ハプスブルクの顎」はあったものの、その他は問題がなく、実母の弟であるレオポルト1世と叔父姪婚をします。当時の政略婚にしては夫婦仲も良く、比較的幸福な結婚生活でしたが6人目の出産の際に死産しています。

プレビュー画像: ©️pinterest/elpais.com