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ストーリー

江戸時代のシュールすぎる恋物語「箱入娘面屋人魚」

「人魚」といえば、どんなイメージを思い描きますか?

王子様に恋をして海の泡と消えたアンデルセン童話の人魚姫、あるいは航海者を美しい歌声で魅了し難破させる伝説の生物セイレーンのように、儚げで美しくミステリアス…そんなイメージを抱く人も多いのではないでしょうか。

しかし、江戸時代に思い描かれていた人魚像は現代とはかなり隔たりがあるようです。

美しい女性の上半身を持つ西洋の人魚のイメージとはかなり対極にある、「顔だけ人間」の日本古来の人魚イメージ。もはや人面魚、といった方が的確かもしれません。

そんな人面魚…じゃなくて人魚と人間の恋物語が江戸時代、ベストセラーとなりました。

江戸時代の大人向け絵本・マンガ「黄表紙」。黄表紙業界を代表する当時の売れっ子作家であり、浮世絵師としても名高い山東京伝が描いた人魚と人間のラブロマンスを紹介します。

箱入娘面屋人魚〜あらすじ〜

1791年に刊行されたヒット作品箱入娘面屋人魚(はこいりむすめめんやにんぎょう)」のあらすじをサクッとまとめました。

人面魚の出生の秘密全ては太郎の浮気から始まった

竜宮城に留まり、乙姫さまと結婚した浦島太郎。ヒモ生活を満喫していましたが、美しい乙姫さまにも飽きたので、鯉(淡水魚なのに、なぜ海にいる?)と浮気。その結果、鯉は妊娠してしまいます。

秘密裏に浮気相手の鯉にこっそり出産させる浦島太郎。生まれてきたのは顔は人、首から下は魚の赤ちゃん人面魚(一応は人魚)でした。

乙姫様に浮気がバレないよう、浮気夫の太郎はあろうことか生後間もない我が子を捨てる外道ぶりを発揮。「育てて見世物小屋に出して稼ぐ手もあるけど…」とゲスの極み発言と共に子捨てする太郎。

実父に捨てられた人面魚の運命はいかに…

運命の出会い出会って速攻

太郎のクズ行為から歳月が流れたある日、漁師の平次が釣りをしていると…なんと奇妙な生き物を釣り上げます。

そう、この奇妙な生物こそ、浦島太郎に捨てられた赤ちゃん人面魚の成長した姿だったのです…!

「怪しい生物ではございません。どうか私をあなたのお嫁さんにしてください…」

釣ったばかりのどう見ても怪しい人面魚から、速攻でまさかの船上逆プロポーズ。逆ナンを超えて、いきなりの求婚です。

普通なら気持ち悪がって拒否するところですが、心優しい平次はこの奇妙な人面魚を哀れに思い、妻として迎えることを決意。

夫婦二人の慎ましやかな新婚生活が始まります。

とりあえず人面魚妻に何を食べさせたらいいか分からないので、ボウフラを捕って来て食べさせようとする平次。完全に魚扱いしています。

一方、人面魚妻は落雁や、おこしなどの高価な干菓子を要求。このままではエンゲル係数は上がる一方です。

しかしながら、平次は一人で食べていくのが精一杯な貧しい漁師。到底、人面魚の妻まで養うことはできません。そこで、平次を愛する人面魚は遊女になって家計を助けることを決意。

出稼ぎに出る人面魚妻:夫を支えるため遊女に

七両二分で女郎屋の主人にスカウトされた人面魚妻は、平次の留守中に遊女になる契約をしてしまいます。

平時に置き手紙を残す人面魚妻。でも手がないので、口に筆をくわえて壁(襖?)に書くという大胆な置き手紙です。

とはいうものの、顔と心は女性でも体は魚。一体どうやって客を取るのでしょうか…?

いざ遊女デビューしかし初日に衝撃の展開が

女郎屋のやり手婆は、人面魚妻に「魚人(うおんど)」という源氏名をつけ、「尾びれは股引きでごまかせばいいから。魚だとバレんだろ」」と股引を履かせ、さっそく遊女デビューさせることに。

黒子に支えられ、人面魚改め「魚人(うおんど)」は遊女デビューにしては破格の高待遇で花魁道中よろしく吉原を練り歩き、「歩き方が変」と突っ込まれながらも最初の客をゲット。

しかし、一人目の客と床に入りコトに及ぼうとすると…

「うわっ、めっちゃ生魚臭い!」黒子が必死に引き止めるも、逃げられてしまいます。

魚人(うおんど)は遊女デビュー初日にして即クビに。

仕方なく、平次のもとへと戻された人面魚妻。女郎屋主人から色々と出費が掛かったと愚痴を言いまくられ仏頂面の平次。

その手があったか!人面魚妻の新たな商法

どうやって二人食べていこう…と困っていると、そこへ男性が訪ねてきて「『人魚を舐めると若返る』と古い本に書いてありましたが…」と言います。実際に男性が人面魚妻を舐めてみると、あら不思議。すっかり若返ったではありませんか。

人面魚妻を舐めると若返るという噂は広がり、多くの人が一舐めしたいと押し寄せます。そこで平次は「若返る寿命の薬 人魚御なめ所」という看板を出して商売を始めます。

一舐め1両1分(約10万円以上)の高額にも関わらず、連日押すなおすなの大盛況。若返りたい人々が列をなして詰めかけます。

人面魚妻のおかげで平次はたちまち大金持ちに。なんというドル箱妻。成功を妬んだ男たちが平次の留守を狙って口説きに来ますが、夫一筋な人面魚妻は尾びれで突っぱねます。

舐めすぎもほどほどにピンチに陥る夫婦

しかし、大金持ちになった平次は妻を舐め放題なのをいいことに、舐めまくってたら、若返りすぎて7歳くらいの子供になってしまいます。

「あれ、なんかお乳が飲みたくなってきた」と言う始末。平次、ピンチ!

お子様化した夫と人面魚妻…「この先、どうしよう…」二人が途方に暮れているところに、人面魚妻の両親、浦島太郎と鯉が現れます。なんという出来すぎたタイミング。

両親がお子様平次に玉手箱を開けさせると…なんということでしょう。ちょうど良い具合に歳を取り、男盛りになりました。

ついでに人面魚も足と手が出来て魚から人の体に大変身。なんとも虫のいい話です。

大儲け商法ネタは失ってしまったものの、二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。

人魚(人面魚)がいたことから、ここを人魚町と呼ぶようになるが、今は誤って人形町と呼ばれている。(なんちゃって!)と山東京伝のダジャレで〆られています。

〜おしまい〜

江戸時代の笑いのセンスが光るこの作品。シュールな構図の絵に加え、なかなかに強引なストーリー展開が良い味出してます。

当時江戸で人気を博した黄表紙はダジャレやパロディーが満載。現代のギャグ漫画のような位置付けにあり、かなりシュールな内容の作品が多く、その中でも山東京伝は数多くのヒット作を残しています。興味のある方は是非、チェックしてみてくださいね。

出典: twitter.com/tkasasagi

プレビュー画像: ©︎twitter.com/tkasasagi