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ジーンとくる話

建物の間の隙間へと体をよじらて入っていく女性。中からあるものが引っぱり出された瞬間、カメラが回り始める。

ロシア極東部の都市ハバロフスクの住宅街。そこには、近隣の住人たちに「アズカバンの囚人」と呼ばれる一匹の犬がいました。ハリーポッターシリーズのタイトルにちなんで付けられた面白みのあるニックネームとは裏腹に、犬は過酷な状況に長いこと置かれていました。

犬はスーパーと高層アパートの間にある狭い隙間に閉じ込められていたのです。犬の存在を長いこと知っていた人は多くいたにも関わらず、今まで犬を助け出そうとした人は誰ひとりいませんでした。この見て見ぬ振りの状態が始まったのは、約3年間のことです。

Youtube/VestiKhabarovsk

近所の住人たちは、あるときから毎日のように犬の鳴き声を聞くようになり、やがて、アパートとスーパーの間にある小さな隙間の中に小さな野良犬がいることに人々は気づき始めます。犬がそこに捨てられたのか迷い込んだのかは不明でしたが、いくら人が餌でおびき寄せようとしても、小さく暗い空間から一歩も外へ出てきませんでした。始めは恐怖から外に出ることをためらっていた小さな子犬でしたが、やがて体が成長すると、その分厚いコンクリート壁に囲まれた空間から出ようにも出れなくなってしまったのです。

隙間の中に餌を投げ込む人はいたものの、助け出すまで行動を起こす人はいませんでした。夏も、マイナス20度以下に達する冬も、犬は暗闇の中で生き続けていました。

ハバロフスクで活動している動物保護団体がこの犬の存在を知ったのは、ついこの間のことでした。しかし、救出するためには横のコンクリート壁を破壊して隙間を広げなくてはならず、それには行政からの許可が必要でした。これが難航します。いくら待っても許可が降りなかったのです。しかし、待っている猶予などありませんでした。犬の鳴き声にうんざりしていたアパートの住人の中には、犬を撃ち殺してやると脅してくるような人たちもいたからです。団体の関係者たちは結局、公式な許可なしに壁の一部を破壊すことにしました。

団体のスタッフが、現場に機材を持ち込み作業にとりかかりました。後々のトラブルを避けるため、壁の破壊は最小限に抑えなければなりません。そのため、細身の女性がやっと入れるほどの大きさの穴を開けます。

女性スタッフが腹這いになって小さな壁の隙間に身をよじらせて入っていきました。穴の中で犬を確認した女性が餌で犬をおびき寄せて首にリードをかけ、合図とともに外で待ち受ける男性スタッフがリードを引き、犬を外に引きずり出すことに成功しました。3年もの間、暗闇の中に閉じ込められていた犬が始めて太陽の下に出てきた瞬間でした。怯え、逃れようとあばれる犬を男性スタッフが優しくなだめようとします。

犬は、その後ロシア語で「自由」を意味する「ヴォーリア」と名付けられました。ヴォーリアは、穴の中で3年も過ごしていた犬とは思えないほどの健康体で、近所の住人の誰かに定期的に食事をしっかり与えられていたようでした。

今回穴の中に入っていく役目を自ら進んで引き受けたダリア・ステパンソーヴァは、次のようにコメントしています。

「ひどく狭かった。四方をコンクリートに囲まれた空間は、息も出来ないほどで、私は腕の力で体を引っ張りながら前に進んでいった。頭の向きを帰られないほど窮屈で、このまま出れなくなるんじゃないかと思うと怖かった。体もキズだらけになって服も全て後で処分しなくならなかったけど、犬が助けることができて本当に良かった!」

ok.ru/Viknika Brend

ダリアは擦り傷だらけの体や、汚れてしまった服をネットに公開しています。しかし、同じことをもう一度やるかと聞かれた彼女は、「もちろん」と答えています。「痩せ過ぎだからもっと食べなさいって言われなくなるようにかもしれないわ」

ok.ru/Viknika Brend

この救出劇がロシア国内で大きく報じられたおかげで、ヴォーリアの里親もすぐ見つかったそうです。これからは、たっぷりに愛情を受けながら、太陽の下で元気に暮らしていって欲しいですね。