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びっくり

【おっちゃんの世界遺産】ひとり黙々と石を積み上げる80歳男性。19年後、目の前に広がる美しい光景に涙が溢れた 。

三重県伊勢市に住む井村裕保さん(80歳)は中学2年生の時、少年雑誌の中に付録で入っていた厚紙で作る小さい「姫路城」の模型に夢中になります。組み立て式の付録を作っているうちに「大人になったらもっとでっかいのを作って見たいな」と思うようになります。

YouTube/伊勢新聞

姫路城は兵庫県・姫路市にある江戸時代初期に建てられた天守閣が現存するユネスコの世界遺産リストにも登録された重要文化財。その白く美しい様から別名「白鷺城」(はくろじょう)とも呼ばれ、世界中から毎年200万人以上の観光客が訪れる日本有数の観光スポットとなっています。

47歳の誕生日を迎えた当時、井村さんは保険会社の調査員として働きながら平凡な生活を送っていました。そんな夫に子供の頃からの情熱を知る妻の郁子さん(77歳)が送った誕生日プレゼントは姫路城の本でした。井村さんは妻からの贈り物に少年時代の夢を刺激され築城を決意したそうです。

それから独学で建築学や図面の作製法などを学び、ついに49歳の時に築城に取りかかるべく、周りに電柱や電線など景観を害するものがない場所を探し、そこに土地を購入しました。23分の1の縮小設計図を自分の手で描き、仕事をしながら城造りを進めました。

そんな情熱に満ちた夫の姿を見て妻の郁子さんも、自分に何かできることはないかと考えます。そこで思いついたのが、いつの日か城が完成した際にその天守閣や主要な櫓を飾る鯱(しゃちほこ)や、場内に配置する侍や馬の人形の作製です。このために郁子さんはわざわざ陶芸教室に通い、実物を忠実に再現しました。型は存在せず一つ一つ手作りだそうです。夫の井村さんも「人形を置くと城が活きてくる」と郁子さんの作った城の住人たちにご満悦の様子。

城造りのために土地を購入してから19年の歳月を経て、ついに「白鷺苑」が完成を迎えます。石垣などの土台の建設に13年、天守閣や御殿は6年かけて作ったそうです。建設にかかった費用は最終的に材料費だけでなんと1800万円にも及びました。

石垣には天然石のみを使用し、ひとつひとつ丁寧に小さくカットして積み上げたそうで、なかなか縁が揃わず何度もやり直しをせざるを得なかったとのこと。その高さや段は実物との縮尺を考え、正確に再現されているそうです。城内に見受けられる樹々や苔は当然本物で、これも姫路城に似せるための工夫です。他にも階段の段数まで現物に合わせるなど、その手の混みようは並大抵ではありません。

井村さんの城を見学した姫路市立城郭研究室の学芸員は「姫路城かと見まがうほど本物そっくりでした」と語っています。姫路城には消失のため現存しない「西の丸の御殿」なども復元されており、江戸時代の風景はこのようだったのだろうと思いを巡らせる事ができます。

しかしそんな井村さんも御年80歳。他にもまだ実現したい事はあるそうですが、体力が続かないと言います。城を今の状態に保存し、修繕を施していくことがこれからの目標だそうです。ちなみにこちらのミニ姫路城もとい「白鷺苑」は井村さんのご厚意で無料でご覧いただける上、無料の駐車スペースまで用意されているそうです。

子供の頃というのは誰でも夢を抱くものですが、井村さんのようにそれを実際に達成できる人はそう多くありません。しかしこれは、献身な妻の郁子さんの存在があったからこそ成し得た偉業なのかもしれませんね。ミニチュア姫路城・白鷺苑の住所はこちらをご覧ください。