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子ども

【ぼくがいるよ】味覚を失い料理の味付けができなくなったお母さん…小4の息子の提案に思わず涙

いつも家で顔を合わせていた父親や母親が入院して家にいない。大人だけでなく、幼い子供にとって親の入院は一大事です。やっと退院して家に戻ってきてくれた時には、ホッと安堵して甘えたい気持ちも倍増するものです。でも、家に帰ってきた親の体調が以前のように回復していなかったとしたら…

日本語検定委員会主催で毎年行われる「日本語大賞」。2014年に文部科学大臣賞・小学生の部を受賞した森田悠生君(当時小学4年生)の作文は、新聞にも全文掲載され、多くの人々の心を揺さぶりました。

当時、TwitterなどのSNSでも大きな話題を集めたこの作文ですが…あれから8年、Twitterの投稿をきっかけに再び話題となっています。

退院後の母を気遣う男の子の想いに、胸を打たれ涙する人が続出した作文を紹介します。

「ぼくがいるよ」

(千葉県 富津市立富津小学校 四年 森田悠生君)
 
お母さんが帰ってくる!
一ヶ月近く入院生活を送っていたお母さんが戻ってくる。お母さんが退院する日、ぼくは友だちと遊ぶ約束もせず、寄り道もしないでいちもくさんに帰宅した。久しぶりに会うお母さんとたくさん話がしたかった。話したいことはたくさんあるんだ。

帰宅すると、台所から香ばしいにおいがしてきた。ぼくの大好きなホットケーキのはちみつがけだ。台所にはお母さんが立っていた。少しやせたようだけど、思っていたよりも元気そうでぼくはとりあえず安心した。「おかえり」いつものお母さんの声がその日だけは特別に聞こえた。そして、はちみつがたっぷりかかったホットケーキがとてもおいしかった。お母さんが入院する前と同じ日常がぼくの家庭にもどってきた。

お母さんの様子が以前とちがうことに気が付いたのはそれから数日経ってからのことだ。みそ汁の味が急にこくなったり、そうではなかったりしたのでぼくは何気なく「なんだか最近、みそ汁の味がヘン。」と言ってしまった。すると、お母さんはとても困った顔をした。

「実はね、手術をしてから味と匂いが全くないの。だから、料理の味付けがてきとうになっちゃって・・・」お母さんは深いため息をついた。そう言われてみると最近のお母さんはあまり食事をしなくなった。作るおかずも特別な味付けが必要ないものばかりだ。

しだいにお母さんの手作りの料理が姿を消していった。かわりに近くのスーパーのお惣菜が食卓に並ぶようになった。そんな状況を見てぼくは一つの提案を思いついた。ぼくは料理が出来ないけれどお母さんの味は覚えている。だから、料理はお母さんがして味付けはぼくがする。共同で料理を作ることを思いついた。

「ぼくが味付けをするから、一緒に料理を作ろうよ。」ぼくからの提案にお母さんは少しおどろいていたけど、すぐに賛成してくれた。「では、ぶりの照り焼きに挑戦してみようか」お母さんが言った。ぶりの照り焼きは家族の好物だ。フライパンで皮がパリッとするまでぶりを焼く。その後、レシピ通りに作ったタレを混ぜる。そこまではお母さんの仕事。タレを煮詰めて家族が好きな味に仕上げるのがぼくの仕事。だいぶ照りが出てきたところでタレの味を確かめる。「いつもの味だ。」ぼくがそう言うと久しぶりにお母さんに笑顔が戻った。

その日からお母さんとぼくの共同作業が始まった。お父さんも時々加わった。
ぼくは朝、一時間早起きをして一緒に食事を作るようになった。

お母さんは家族をあまり頼りにしないで一人でなんでもやってしまう。でもね、お母さん、ぼくがいるよ。ぼくはお母さんが思っているよりもずっとしっかりしている。だから、ぼくにもっと頼ってもいいよ。ぼくがいるよ。

いつか、お母さんの病気が治ることを祈りながら心の中でそうくり返した。

病気の影響で味覚と臭覚が落ち、味見ができなくなってしまったお母さん。これまでのように料理の味付けができないことから、徐々に料理をする回数も減っていき…食卓にはスーパーで購入したお惣菜が並ぶようになります。

味付けの十分でない食事を家族に出すわけにはいかない、とお母さんなりの葛藤があったことでしょう。味が分からないことから、以前のような料理を作ることができず気落ちし、料理へのモチベーションが下がってしまうこともあったでしょう。

でも、森田君はそんなお母さんに寄り添い、味付け担当の役を買って出るのです。母と息子、料理の共同作業の日々が始まります。「いつもの味だ」以前と同じ味付けで料理を完成することができたお母さんは、森田君の言葉に久々に笑顔を見せます。

お母さんは家族をあまり頼りにしないで一人でなんでもやってしまう。でもね、お母さん、ぼくがいるよ。ぼくはお母さんが思っているよりもずっとしっかりしている。だから、ぼくにもっと頼ってもいいよ。ぼくがいるよ。

お母さんを想い、もっとぼくに頼っていいんだよ、と心の中で語りかける森田君の言葉は多くの人々の心に響き、涙を誘いました。

Twitterの反応

母親に対する息子の優しさに溢れたこの作文は、8年を経た今も変わらず読む者を優しい感動で包み込みます。

当時小学4年生だった森田君は現在、18歳。きっと優しくて素敵な青年に成長していることでしょう。お母さんが味覚と嗅覚が元に戻り、病気が完治していますように。

多くの反響を呼んだ当作文「ぼくがいるよ」は小学校の道徳教科書の教材として取り上げられています。

出典: nihongokentei.jp

プレビュー画像: ©︎pinterest/sirogohan.com