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トリビア

彼女の両親は彼女が悪魔に取り憑かれていると言った。真実が裁判所で露呈された。

アメリカ映画『エミリー・ローズ』(2005年)は悪魔に取り憑かれたと思われた少女が悪魔払いを受けるというホラーサスペンスですが、1976年にドイツで実際に起こった事件を題材に作られました。実話に関する記録や資料は、その多くが残っており、映画以上に恐ろしいのではないかと話題になっています。

実在したドイツ人女性の名前はエミリー・ローズではなく、アンナ・エリザベート・ミヘルで、アンネリーゼと呼ばれていました。ドイツのバイエルン州にある小さなリープルフィングという村で1952年、敬虔なキリスト教徒の両親、ヨゼフとアンナのもとに生まれました。

アンネリーゼは幼少の頃から病弱で、静かで真面目な性格でしたが友だち付き合いは良い少女でした。また、とても信心深く、両親と3人の姉妹と一緒に週2回は教会に通っていました。

アンネリーゼは16歳の頃にてんかんと診断され、その後に肺炎と結核になりサナトリウム(保養所)で6ヶ月入院治療を受けています。回復して復学した際に留年を経験したことが原因で、級友たちとは疎遠になってしまいます。

アンネリーゼの厳格な両親は娘たちが男の子に会うことを禁止し、同い年の女の子であっても自宅に遊びに来ることを許しませんでした。当時のドイツのティーンエイジャーたちの間では当たり前だったダンスや、終業後の外出もミヘル家の子供たちは禁止されていました。この極端な教育方針による社会的隔離は、10代の繊細な少女の心を確実に蝕んでいきます。やがてアンネリーゼはうつ状態に陥り、神経症と思われる症状を現し始めます。

高校の卒業試験に向けて勉強をしていた時期、アンネリーゼは幻聴を経験しています。壁を叩く音、さらには地獄からの声を聞いたことを両親に訴えたのです。同じ年、大学へ進学するためにヴュルツブルグへと引っ越したアンネリーゼは、大学のキャンパス内にあったクリニックを鬱の治療のために訪れました。そのときに行われた検査で、脳にある病変が彼女の抱えているてんかん症状の原因であることがわかりました。

大学に通い始めてから間もなくして、アンネリーゼは宗教に関係する装飾品などに嫌悪を示すようになります。幻聴症状も収まらず、薬物投与を受けたものの病状は悪化し、大学を休学して実家に戻ることを余儀なくされました。このころから、敬虔なキリスト教徒である両親や家族の知人たちは、アンネリーゼが健康を害しているのではなく悪魔に取り憑かれていると確信するようになり、この説明をアンネリーゼ自身も信じるようになるのです。

1975年の夏、アナリーゼに対する悪魔払いが執り行われることになります。エアーンスト・アルト神父が儀式を始めるた瞬間、アンネリーゼは神父の数珠を引きちぎりバラバラに壊しました。この時点でアンネリーゼはかなり衰弱した状態にあり、アルト神父は病院で治療を受けることを勧めましたが、アンネリーゼの両親は医学的治療を探すことを止めて悪魔祓いの儀式のみに頼ることにしたのす。

アルト神父とアルノルト・レンツ司教による悪魔払いの儀式は、1975年から1976年にかけて約10か月間、1週間に1、2回、計67回のセッションが行われました。

悪魔払いが施される間もアンネリーゼの身体的な症状は悪化し、叫んだり異言を語ったり、ときには犬のように吠え、自分自身の尿を飲んだり、昆虫を食べる行動をとるなど攻撃的な行動が見られるようになります。神父らは、ルシファー、「カインとアベル」のカイン、イスカリオテのユダ、暴君ネロ、アドルフ・ヒトラーなど、ありとあらゆる悪霊に取り憑かれていることを疑いました。

アンネリーゼは自分自身を清めるために絶食し、何時間も跪き頭を床に打ち付ける礼拝をやめようとしませんでした。彼女の体は自虐的な行為によって傷き、ときには一日何百回もスクワットを行うことや、自分の手や足に聖イエスの釘の痛みを感じると言うこともありました。そのため、家族は彼女をベッドに縛りつけるようになります。

1976年7月1日、24歳のアンネリーゼは自宅で死亡します。検死の結果、死因は半飢餓状態となったことによる栄養失調と脱水でであることが判明します。亡くなったときの体重は、僅か30キロでした。また、重度の肺炎に侵されており、身体中が傷やアザに覆われていました。

両親と聖職者たちは、過失致死傷罪に問われ、当時この事件は、センセーショナルな話題として大きな注目を集めました。儀式を行うことを承諾した司教は怠慢による過失致死罪として有罪、6ヵ月の拘留(後に保留)と3年の執行猶予とする判決が言い渡されたものの、2人の司祭たちについては罰金刑のみ、両親は免罪となっています。

この事件の後カトリック教会は悪魔払いに関する規定を変更し、もし取り憑かれている人間が医学的な治療を拒否した場合には、即悪魔払いを中止しなければならないことを厳しく規制することになります。

映画『エミリー・ローズ』が公開された2005年、アンネリーゼの母はマスコミのインタビューに応えています。その際、自分のしたことを今でも後悔しておらず、アンネリーゼに取り憑いた悪魔を払うために行ったことはすべて神の思し召しだったと語っていました。

当時バチカンにまで波紋の及んだこの事件、本当の悪魔は一体何だったのでしょうか。