えらい
37歳まで無職だった夫 しかし妻が言った一言は夫の人生を永遠に変える
映画監督のアン・リーをご存知ですか?
2005年に、アジア人で歴史上初めてとなるアカデミー監督賞を受賞した台湾人の映画監督です。
「グリーン・デスティニー」「ブロークバック・マウンテン」「ラスト、コーション」「ライフ・オブ・パイ」…
アン・リーが監督した映画を、ひょっとしたらみなさんも一本くらい観たことがあるのではないでしょうか。
さまざまなジャンル、そして国で優れた作品を発表し続けるアン・リー監督。しかし、その成功は決して一人で成し遂げられたものではないのです。
今回紹介するのは、アン・リー監督と、彼の才能を誰よりも先に見抜いていたある女性の物語です。
台湾に生まれたアン少年は、幼い頃から芸術に興味を示し、映画監督になる夢を抱いていました。
地元の台湾の名声ある芸術学校に進学したのち、映画監督になる夢を追うためにアメリカに渡ることを決意したのです。
しかし父親は猛反対します。
「映画監督になんかなれっこない…」
(左が青年時代のアン・リー)
そんな父の反対を押し切って、25歳でアメリカの地を踏んだアン。映画制作が盛んなこの土地であれば、きっとチャンスが巡ってくるはず…そう信じていたのです。
しかし、現実はそう甘くはありませんでした。
当然、アメリカの映画制作の現場はとても競争が激しく、移民で英語がそこまで得意ではなく、なおかつ少しシャイな性格だったアンに、仕事など回ってくるはずもありませんでした。
アンは30歳になってもなお、無職だったのです。
そんな時アンが頼りっきりだったのは、妻のジェーン・リンでした。2人はアメリカの大学で知り合いました。
夢見がちなアンとは対照的に、ジェーンはとても現実的で、地に足のついた女性でした。ジェーンは小さな製薬研究所で働いており、その慎ましい収入だけで家族はやりくりしていたのです。
アンはその罪悪感から、家事のすべてを引き受け、息子ハーンの世話をしながら、妻の帰りを待つ日々でした。
中華圏には、「三十而立」…つまり三十にして立つという言葉があります。つまり、30歳になったら、今まで積み上げてきた学問などを駆使して、しっかりと自立し、家族を養わなければならないという意味です。
このままではいけない…ついにアンは、現実と向かい合う決心をします。
映画監督の夢を諦めることにしたのです。
当時、次に伸びるだろうと言われていたITの分野に参入して、より安定した給料の高い仕事に就く決心をしたアン。そのために、妻のジェーンに内緒で、コンピューター教室にこっそりと通い始めたのです。
そんなある日、妻のジェーンは車で仕事に向かう時、アンの方を振り返って、アンの人生を永遠に変える言葉を言い放ったのです。
「アン、絶対に夢を忘れないで」
ジェーンは全てお見通しでした。アンが鞄の中にしまい忘れたコンピューター教室のスケジュール表を、たまたま見ていたのです。
「人生に必要な才能はひとつだけ。それに全て捧げなきゃダメなの」
その言葉を聞いた瞬間、捨てかけたアンの夢は一瞬にして、鮮やかに甦ったのです。
コンピューター教室のスケジュール表を破り捨て、アンは何かに取り憑かれたように映画の猛勉強を開始。
その後なんと7年間も、経済的に妻に頼りっきりの生活を続けました。しかし、磨き続けた実力は、ついに日の目を見始めるのです。
アンは自身の書いた脚本を映画化するための資金調達に成功し、完成した映画は多くの映画祭で上映され、大きな評判を呼びます。
多くの時間を研鑽に費やしたその腕前は世界的に評価され始め、ついに長年の夢だった、映画監督としてのキャリアを歩み始めたのです!
「グリーン・デスティニー」、「ブロークバック・マウンテン」、「ライフ・オブ・パイ」…誰もが知る名作を次々と生み出しますが、アンの成功は決して商業的な成功だけにとどまりませんでした。
2005年、映画界最高の栄誉であるアカデミー監督賞を獲得。この受賞は、歴史上初となるアジア人の受賞でした…映画の歴史を、アン・リーは塗り替え、多くの次に続くアジア人映画監督に希望を与えたのです。(その15年後、アジア人として2番目に監督賞を獲得したのは、「パラサイト」のポン・ジュノ監督です)
長い不遇の時期を乗り越え 名実ともにアンは世界を代表する映画監督になったのです!
しかし家にオスカー像を持って帰っても妻ジェーンはいつもと変わらない様子でした。
「家ではあなたはいつものアン・リーです。ここは撮影現場ではないんだから、やるべき家事は自分でやってください」
夫が世界的な成功を収めても、ジェーンは出会った頃のように、クールで現実的なままだったのです!
映画監督として大きな成功を収めた今、アン・リー監督は今までになく、あるひとつの言葉を深く噛み締めているに違いありません。
「人生に必要な才能はひとつだけ。それに全て捧げなきゃダメなの」…
妻の言葉は、いつまでも彼の中にあるのです。
プレビュー画像: / © Facebook/ Jeyapragash Jeyamurthi

