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ジーンとくる話

目に涙を浮かべる視覚障害の男性。でも誰も席を譲ろうとしなかった。

体に障害を抱える人々の毎日は困難の連続です。公共交通機関の利用から、スーパーでの買い物まで、世界中どこでも、生活を送る環境は健常者に合わせて作られているからです。もちろん障害者の人たちがもう少し使いやすいように、様々なインフラが工夫され整備されてはいます。しかし周囲の人々の理解、注意と心遣いがなければ、こうしたインフラ整備も無駄に終わってしまうことがあるのです。

悲しいことに、あまりに多くの人々にとって自分以外の人や動物のことは注意するに値しないことのようです。ロンドン在住のアミット・パテルは、37歳。2012年に突然、ほとんどの視力を失ってしまった彼は、以来、盲導犬のキカと一緒に暮らしています。視力を失う前は医師として働いていたアミットは、今でも日常的にロンドンの公共交通機関を利用していますが、あまりのストレスに涙をこらえ切れなくなるようなこともあるといいます。

例えば、こんなことが起こりました。

その日、電車でニュー・エルサムからウォータールー・イースト駅に向かう予定だったアミットとキカ。大雨が降りしきる火曜日でした。アミットはキカの視点からこの日のことをTwitterに綴っています。

「土砂降りの中、プラットフォームの端まで行った。電車の障害者優先席に乗り込むためだ。ご主人は僕に『空席を探して』と指示を出したけど、誰も席を譲ろうとしなかった!」さらにこう続きます。「濡れてツルツル滑る床の上で転ばないように気をつけながら、ご主人は背中をドアにもたらせて立っていた。僕もツルツルあちこち滑っていた。人間の良心は、一体どこにいったの!」

掴まるところさえ確保できない滑る車内の中に立っているのは容易なことではありませんでした。そんなアミットとキカを、車内の誰も気遣う様子はなく、ましてキカが盲導犬だということに気づく人などいませんでした。

「席を譲って欲しいと頼んで無視されることなど日常茶飯事です。でも昨日は特に腹が立ちました。床はとても滑りやすくなっていて、キカはバランスを保てないようでした。とても不安げな様子で。どうしてあげることもできなくて情けなくなりました」アミットは別のツイートにこう記しています。

視覚障害と周囲の人々の無関心で不便で不快な思いをし、キカを不安にさせていることにさらに心を痛めるアミット。心ある駅員や、良心的な乗客に出会うこともありますが、ほとんどの人にはまるでアミットとキカのことが見えていないようだと言います。

「人は席を譲ってと頼まれたときでさえ、気づいても見えないふり聞こえないふりをする。グラグラ揺れる車内で掴まるところを探して倒れないようにしつつ、キカのことも心配しなきゃいけないそんな時、涙がこぼれそうになります。視覚障害だけでも十分生きていくのが大変なのに」とアミット。

アミットは、自分も含め社会の中に一緒に暮らす障害者全般に対する関心をもっと高めたいと、キカにドッグカメラをつけて撮影した映像や写真を公開しています。

どんなに障害者優先のインフラが整っても、周囲の人間の最低限の良心さえなければ何も役に立たないのかも知れません。あなたの周囲にもこんなことありませんか?