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「私だけカブールを去ることはできない」アフガニスタンの女性たちと動物を救おうと「箱舟作戦」を展開する元英国軍人

現在、アフガニスタンの人々はディストピア(暗黒郷)の再現を恐れています。特に女性や少女にとっては絶望的な悪夢の再現です。

かつてタリバン支配下で、女性は公共交通機関を利用することを許されず、ブルカで顔と全身を隠さなければなりませんでした。男性の同伴者と一緒でなければ、街に出ただけで殴られたり逮捕される危険があるなど、日常の自由は厳しく制限されていました。

米軍が駐留した20年でアフガニスタンの女性の人権には多くの進歩がみられましたが、タリバンの復権で、それが一夜にして消えてしまうのではないかと女性たちは恐れているのです。そして、その懸念は早くも現実のものになりつつあります。タリバンに制圧された首都カブールでは、看板の女性の写真が塗り潰されている様子や、女性達が突然、大学や職場から追い出されたというニュースが伝えられています。

現在、多くの女性が不安と恐怖で家にこもり、卒業証書や卒業証明書を隠したり燃やしたりしています。何よりも女性たちが恐れているのは強制結婚です。かつて、未婚の女性は、いつでもタリバンの戦闘員の「花嫁」となることを要求されてきました。女性達の人権、仕事、教育、業績がすべて突然奪われてしまうという悪夢が現実として目の前に迫っているのです。

しかし、そんな非人道的な運命に脅かされている女性たちを避難させようと取り組む人たちがいます。元英国海兵隊員ポール・ファージング、通称「ペン」もそのひとり。かつて英国海軍に所属していたペンは、アフガニスタンの南部ナウザードという小さな町に駐留していたとき、路上で2匹の犬が喧嘩をしているのを見かけました。彼が2匹を引き離したところ、1匹がペンになついて後をついてくるのに気がつきました。ペンはその犬を「ナウザード」と名付け、飼うことにしました。

いよいよ退役となり、英国に帰還することになったとき、彼はあることを思いつきました。アフガニスタンで動物を可愛がっていた兵士は彼だけではありません。駐留軍の兵士の多くが、途中で見つけた捨て犬や野良猫を飼っていました。ペンはアフガニスタンにいる人間と動物の両方にとって良いことをしたいと考え、野良動物を保護し、その後、動物を飼いたい兵士に仲介する動物保護施設と動物病院を設立したのです。

15年前に彼が設立した動物保護団体「ナウザード」は、野良犬や猫、虐待されたロバなど1,600頭以上の動物を保護し、アフガニスタンで初めての女性獣医師を養成してきました。

 
 
 
 
 
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ペンはこの女性獣医師たちを国外に連れ出し安全な場所に連れて行きたいと考えています。「今、彼女たちが感じていることを説明する言葉は見つかりません。タリバンの戦闘員との結婚を強制され、外出することもできず、嫌悪する相手と子どもを作らなければならないなんて、彼女達にいったい何と言葉をかけたら良いのでしょうか?」

英国軍は何週間も前にアフガニスタンを去っていますが、ペンは英国に戻ることを拒否し、過去15年間に彼の従業員や同僚であった計71人と救出した動物たちをアフガニスタンから英国に退避させるよう英国政府に求めたのです。彼はこれを「箱舟作戦(Operation Ark)」と名付け、クラウドファンディングを開始。「私はスタッフを残してカブールを去ることはできない」と動画で訴え、スタッフと動物を退避させるチャーター機を手配する資金を集めました。

ペンの箱舟作戦は論争を呼びましたが、英国内で彼を支持する声が高まったこともあり、英国政府は彼の要求を承認。2021年8月25日、ベン・ウォレス英国防相は、ペンの要望を受け、彼のスタッフと約200匹の犬や猫を首都カブールからチャーター機で退避させることを許可すると発表しました。

他の人々が早々に立ち去る中、現地に留まり、10年以上一緒に働いてきた人々と動物たちを絶望的な運命から救おうと尽力するペン。彼の勇気と人間性が報われることを願ってやみません。

プレビュー画像: ©Instagram/nowzadrescue