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息子の夢を知った時父親は木棒で何度も殴った。シリア難民キャンプで禁じられた夢を見た少年の20年後の姿に声を上げずにいられない。

皆さんには将来成し遂げたいことはありますか?大きな夢を持ち、その実現を願い努力することは尊いことです。しかし、日本のように自由に夢を持てる国は実は珍しいのかもしれません。夢を持つことすら許されないような厳しい環境がこの世界には多くあります。

今回紹介するのは、世界で最も恵まれない環境に生まれ育ちながらも世界の魂を揺らしたある男性の物語です。

 

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アハマド・ジュデは1990年にシリア人の母とパレスチナ人の父のもと、シリアの首都ダマスカスの南部のパレスチナ難民キャンプで生まれました。周囲は紛争が絶えず、常に銃弾の音が響き渡るような環境でした。

そんなアハマドが8歳になった時、運命的な出会いを果たします。学校の発表会で、たまたまバレエを観劇したのです。一瞬でその魅力の虜になってしまったアハマドは、あることを確信します。
「自分はこれをやるために生まれてきたんだ」

Reportaje Ballet

しかし難民キャンプでバレエをやるなんて前代未聞。しかも、中東は強烈な男社会。男子がバレエを好きになるなんてことはあってはならなかったのです。しかし踊ることに強い情熱を燃やしたアハマドは、部屋に鍵をかけてこっそりとバレエの練習をしていました。努力が実り、16歳になったアハマドは、地元のバレエアカデミーに合格し、本格的にダンサーの道を歩み出すことになるのです。

しかし簡単な道ではありませんでした。ダンスのレッスンを受けていることを父に知られてしまい、父は大激怒。何度も体を木棒で叩かれ、バレエの衣装を全て燃やされてしまいました。結局、父と母は離婚し、アハマドと兄弟たちは母親と一緒に暮らすことを選択します。アハマドは母を支えるため、アルバイトをしながら学校に通い続けました。

Syria

そして2011年、シリアで内戦が始まりました。戦争はどんどん激化していき、アハマドは家を破壊され、5人もの家族を失いました。母親はもうここには住めないと、兄弟たちを連れて自分の故郷パルミラへ戻りました。しかしアハマドだけはダンスを続けるためにダマスカスに残ることにするのです。ホームレス同然の状況ながら、アハマドは来る日も来る日も踊り続けました。

 

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そんな誰もいなくなったヤムルーク・パレスチナ難民キャンプで踊り続けるアハマドを、さらに巨大な試練が襲います。イスラム国やアルカイダ系の過激な原理主義的グループがアハマドの活動を知り、すぐさまやめるように脅迫してきたのです。しかしアハマドはそれにすら屈しませんでした。踊り続けることで、文化や芸術を否定し禁止する人々と闘ったのです。

 

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そんなある日24歳のアハマドに契機が訪れます。レバノンのテレビ局 Murr Television(MTV Lebanon)のダンスオーディション番組 So You Think You Can Danceに出演することになったのです!アハマドは磨き上げたダンスのテクニックで審査員に「踊っているというよりも飛んでいるようだ」と言わしめ魅了しますが、パレスチナ難民で国籍を持っていなかったため優勝には至りませんでした。
その時の映像がこちらです。
「なぜ踊るの?」と聞かれたアハマドは非常に印象深い言葉を残しています。
「醜い人生を、輝きのあるものに変えるためです」

その後さらに大きな転機が訪れます。たまたまアハマドの踊る姿をメディアを通して見たオランダ国立バレエの芸術監督が、ぜひアハマドをオランダに招きたいと申し出たのです。当初アハマドはパスポートを持っていないから無理だと断りますが、アハマドの才能を高く買っていたオランダ側が何とか移住を実現させてくれることとなります。そして2016年アハマドはついにヨーロッパに向かいます。

現在アハマドは、アムステルダムのダンスアカデミーでレッスンを受け、オランダ国立バレエで端役ながらも舞台を踏みはじめました。バレエが存在しないような環境で生まれ育った少年が、ついにバレエ発祥の地・ヨーロッパの大舞台に立ったのです!

 

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依然として生まれ育った地の情勢は安定していないアハマドですが、決して悲観はしていません。バレエを踊っている時だけは、アハマドはひとつのことを信じられると言います。
「大丈夫、すべてうまくいく。このままで終わったりなんかしない」
戦争や脅迫を乗り越えて遠くまできたこのシリアのダンサーは、困難を乗り越える逞しさを携えていたのです。

 

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そんなアハマドの夢は、国立シリア・バレエを立ち上げること。
「僕は生まれてから今日まで、ずっと難民です。その僕が夢を叶えれるということは、他のどんな難民の人たちも夢を叶えれるということ。みんな、夢を叶える力を備えていると感じてほしいんです」

夢を追うことができるという機会を受ける、そんな価値に値する人間でいられるよう、毎日、できる以上の努力をしていると言うアハマド。彼の夢は、まだ始まったばかりです。