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犬の全身に油をかけてスパチュラで撫で回した。5時間後、彼らは思わず目を疑った。

アルゼンチン、ブエノスアイレス州の都市ラヌースを散歩中の二人の少年が溝の中から黒い何かが這い出してくるのを目撃しました。それは動くたびに後方に黒くべったりとした粘り気のある強い臭いを放つ足跡を残していました。正体不明の生物をより近くで見た二人は思わず目を疑いました。それは一匹の犬だったのです。

近づいた二人はさらに衝撃的な事実に気づきました。犬を覆っていた物質はなんとタールだったのです。一般的に道路や高速道路の建設に用いられるタールですが、生物の細胞組織には毒性の強い物質です。深刻な事態に気付いた二人は必死に助けを求めました。運良く車で通りかかった警察官によって二人の少年と犬を地元動物病院に連れて行くことができました。その後、犬はボランティア運営の動物保護施設Zoonosis Lanús(ラヌース動物原性感染症センター)に保護されます。

 Zoonosisのボランティアスタッフらはすぐに犬を入浴させました。しかし、犬の皮膚にべったりとまとわりついたタールを取り除くことはできませんでした。犬の全身の皮膚から体毛まですっかり粘着性のタールにまみれており、お湯で落とそうとしても全く効果がありませんでした。それどころか、洗い落そうとすればするほど、タールはますます犬の皮膚に擦り込まれていくようでした。一体どうしたらこの毒性物質を洗浄することができるのか?スタッフたちもすっかりお手上げの状態でした。

他のクレンンジング剤、油汚れを溶解する洗剤、汚れ落とし専用シャンプー、熱めのお湯から冷たい水までありとあらゆるものを試しましたが効果はありませんでした。全く落ちないタールにスタッフらはくじけそうになったとき、YouTubeでタールを落とすある裏技を見つけました。早速、試してみることにしました。それは犬の全身を覆うタールに油を注ぎ、スパチュラでタールをこそぎ取るという方法でした。ダメで元々、の思いで試したところ、効果があったのです!ゆっくりと、でも確実にタールの粘着物質は除去されていきました。

「数種類のスパチュラや油、必要なものをどっさりと買い込み、YouTubeの説明動画を確認し、それぞれの製品の効果を試しました。最初のうちは効果が見られませんでしたが、油に浸すことでタールの密着度は少しづつ緩んでいきました。最終的に5リットルの油を使いました。最初に指でタールを取り除き、その後にスパチュラを使うのが有効な方法だと気付きました。開始から3時間が経過しても、除去できたのは全体のわずか30%に過ぎませんでした。お湯で洗うことが逆効果であったことに気づいた時は、気が滅入りそうになりました」と、Zoonosis Lanúsのスタッフ、ミリアム・オルテラドは当時を振り返り語りました。

長い除去作業中、スタッフたちは浴槽の中で眠り込んだ犬に「ペトロレオ」(スペイン語で石油、鉱油の意味)と名前をつけました。ボランティアスタッフに加え、犬を発見した二人の少年を含むその場の全員が手作業で懸命に除去にあたっていました。作業開始から5時間後、ようやく厚いタールの層の下に隠れていた犬本来の姿を取り戻すことができました。誰もが疲れ切っていましたが、汚れを取り除くことができたことに大きな達成感を味わいました。

しかし、まだ試練が終わったわけではありませんでした。ペトロレオは大量のタールを飲み込んでおり、どの程度の毒性効果があるのか不明な段階だったのです。しかし幸いにもペトロレオは薬物治療で良好な経過をたどり、間もなく通常の食事をとることができるようになりました。写真のペトロレオはすっかり見違えり、まるで別の犬のようですね。厚いタールに全身を覆われていた犬と同一だとは想像し難いほどです。

ペトロレオにとって命の危機的状況から救われるきっかけとなった二人の少年と偶然にも出会ったことは実に幸運でした。しかし、こうしたハッピーエンドな事例は一方で厳しい現実を突き付けるものでもあります。日々新たに発覚する動物虐待の事件は後を絶ちません。虐待被害を受けた動物の姿はときには見るも痛ましいほどです。動物も人間と同様に命のある生き物として尊重されるべきであるということが広く認知される必要があります。現在、ペトロレオは保護施設で愛情に溢れた家庭に引き取られ新たな生活をスタートさせる日が来るのを待っています。

ペトロレオの動画はこちらから視聴できます:

虐待被害を受けている動物を見過ごすことなく動物愛護団体や行政に連絡することも動物虐待を防ぐ一つの方法です。しかし動物虐待防止の上で何よりも重要なことは、全ての飼い主はペットの一生を責任を持って世話をするという自覚を持つということです。飼い主の愛情のもと多くの動物が幸福に暮らす一方で、悲しい境遇に身を置く動物が多く存在することも事実なのです。