アーティストは6時間、自ら肉体を差し出した。観客が彼女に対して行ったことは、恐怖さえ感じさせる。

刺激の強い描写が含まれています。閲覧の際はご注意ください。

マリーナ・アブラモヴィッチ(Marina Abramović)は、ユーゴスラビア出身、現在はニューヨークを拠点として活動しているパフォーマンス・アーティストです。1970年初頭より30年以上におよぶ活動から、現代美術における「パフォーマンスアートのグランドマザー」と自らを称し、世界の美術界で大きな影響力を持つ女性アーティストとして知られています。

その作品は、芸術家と鑑賞者の間の関係性を重視し、身体の限界や精神の限界・可能性を探究したものが多く、自身の身体に暴力を加えるなどの過激なものも多く発表しています。

中でも1974年にイタリアのナポリで上演された「Rhythm 0 (リズム0)」は、アブラモヴィッチの代表作として有名です。6時間に及んだパフォーマンスは、当時23歳のアーティストが観者の意のままに自らの肉体を使わせる、という衝撃的な内容のものでした。

Youtube/Marina Abramovic Institute

「Rhythm 0 」のパフォーマンスに際して提示されたのは、次のようなインストラクションでした。

「テーブルの上に72個の物体があり、人は望むままに私の体にそれを使うことができます。

パフォーマンス。

オブジェクト(物体)は私です。

上演中は、すべての責任を私が負います。

上演時間:6時間(午後8時〜午前2時)」

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ギャラリーの中心に静かに立ち尽くすアブラモヴィッチの前には、テーブルが置かれ、その上には羽根、靴、バラの花、ぶどう、香水、ワイン、パン、ナイフ、ハサミ、鉄の棒、カミソリの刃、さらには弾を一発込めた銃など、観客が主体となってアーティストに対して使える「快楽や苦痛を与える物」が並べられていました。

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パフォーマンスが始まってから数十分、カメラを持つ人を除いてアブラモヴィッチに近づく人はいませんでした。やがて徐々に、彼女にグラスの水を飲ませたり、バラを渡したり、頬にキスをする人々が現れ始めます。最初の数時間、ギャラリー内の雰囲気は穏やかなものでした。

ところが、ハサミを手にして アーティストの服を切る男性が現れたことをきっかけに、参加者たちは次第に自制心を失っていきます。

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人々は徐々に「苦痛を与える」道具をアーティストの体に使い始めたのです。数名の男性たちは、彼女の体を抱え上げテーブルの上に置くと、脚と脚の間にナイフを置き体を鎖で縛りました。

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人々の行為は大胆さを増していき、服をカミソリで引き裂く、叩く、などの欲動に走り始めます。バラの棘を取って彼女の腹に刺した観客もいれば、カミソリの刃を手にとり、彼女の首を切りつけて血を飲んだ観客もいました。

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パフォーマンスに参加していたアメリカ人美術評論家、トーマス・マクェヴィリー(Thomas McEvilley)は、パフォーマンス中に起こったことを次のように説明しています。

「3時間目には剃刀によって彼女の服は全て引き裂かれていた。4時間目には、その同じ刃が彼女の肌を探索しはじめる。彼女は喉を切られて血を吸われ、マイナーではあったが、さまざまな性的暴行を加えられた。それでも彼女は、レイプや殺人にまでエスカレートしない限り、オブジェとして作品に献身していた」

ついには、装填した銃で男が彼女を脅かすまでに事態はエスカレートします。そのとき、アブラモヴィッチの命の危険を感じた他の参加者が介入し、彼女の目の前で男性2人による喧嘩が繰り広げられました。アーティスト自身もパフォーマンス最後の2時間に経験した恐怖を忘れたことはありません。

「今でも傷が残っています。女たちが男たちに指示していました。男たちが私をレイプしなかったのは、それが普通の展覧会のオープニングで すべて公開されていて、妻と一緒だったからです」

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6時間のパフォーマンスが終了したとき、オブジェではなく「人間」に戻ったアブラモヴィッチは観客の方へ歩き始めました。 ところが半裸で血だらけになり、涙を流している生身の彼女に声をかける観客はおらず、彼女をまともに見ることもできないまま全員がその場を黙って後にしたと言われています。

「みんな普通の人間としての私に向き合えなかったのです」

彼女はパフォーマンス終了後、あまりの恐怖に髪が一筋白髪になってたといいます。

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芸術家と鑑賞者の関係性を実験的に表現し、美術史にアブラモヴィッチの名前が刻まれるきっかけとなったこの作品は、隠れた人間の恐ろしい暗部を浮き彫りにするものでもありました。

「この作品は、自分に好都合な状況下で人は、他人をいとも簡単に傷つけることができることを明らかにし、反撃、防御しない人を非人間的に扱うことが、いかに簡単であるかを示しました。ステージさえ提供されれば、大部分の「正常な」人間は、暴力的になる可能性があるのです」(アブラモヴィッチ)

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こちらの動画では、1974年の「Rhythm 0 (リズム0)」についてアーティスト自身が語っています。(英語音声のみ)

見る者と見られる者との係わり合いは、その後も彼女にとって主要のテーマとなっているものの、観客にパフォーマンスを全面的にコントロールさせる作品は「Rhythm 0 」以降発表されていません。

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