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妻の死にふさぎ込む夫 ふと目をやった新聞に自分の名前を発見して 声を上げて泣いた

アメリカの絵本作家エイミー・クラウス・ローゼンタールとジェイソンがはじめて出会ったのは、1989年のことでした。2人はまだ24歳で、この関係がどこに向かうかなど、想像もしていませんでした。しかしエイミーは、その日のディナーが終わる頃には、この男性と人生を共にしたいと思っていました。その2年後、願いは叶い、エイミーとジェイソンは結婚します。

エイミー

夫婦は3人の子宝に恵まれ、幸せな家庭を築きます。エイミーは絵本作家やフィルムメーカーとして成功を収め、順風満帆な生活を送っていました。 しかし2015年、突然の悲劇が家族を襲います。エイミーの身体から、卵巣がんが発見されたのです。

2年に及び、エイミーは苦しい闘病生活を強いられます。苦しみの中、エイミーは、2017年3月3日にNYタイムズにあるコラムを寄稿します。その内容は驚くべきもので、全米で大きな反響を巻き起こしました。

Newspapers B&W (5)

その題名は、『私の夫と結婚しませんか』
コラムは、こう始まります。
「私は26年間、素晴らしい夫との結婚生活を送りました。そして少なくとも次の26年も一緒に居られると思っていました」

エイミーは、どのようにがんが発見されたかの経緯を書き、「夫と南アフリカへ行く計画も母とアジアを旅行する計画も、すべてフイになってしまったわ」と続けます。
「ガン(cancer)とキャンセル(cancel)の綴りがこんなにも似ているのも不思議じゃないわね!」エイミーは、悲しみをまったく感じさせないウィットに富んだ文体で、どんどん続けていきます。

そして、こう切り出します。
「皆さんに、この紳士を紹介させてください。ジェイソン・ブライアン・ローゼンタールです。彼と恋に落ちるのは簡単です…私は、1日で落ちましたから」

エイミーは、自分の夫の紹介を始めたのです。
「178センチ、73キロ。白髪混じりの髪に、薄茶色の瞳…」

どんどん続けていきます。
「ジェイソンはとってもおしゃれなの。息子のジャスティンとマイルスは、いつもジェイソンの服を借りに来るわ。ジェイソンはとっても料理が上手。仕事から疲れて帰って来た時、ジェイソンがドアから入って来て、スーパーの袋をカウンターに置いて、料理を作ってくれることほど嬉しいことってないんだから!」

他にも、ジェイソンがどれだけ音楽好きなのか、どれだけ素晴らしい父親なのか、どれだけ絵を描くのが上手いのか、どれだけ旅行に一緒に行くのに適した男性なのか…エイミーはたっぷりの愛で書き尽くしていきます。

エイミー2

エピソードにも事欠きません。
「ジェイソンはこんな男性です。最初の妊娠の超音波検査に、花束を持って来るような男。日曜日の朝ちょっと早起きして、スプーンとマグカップとバナナを使って、スマイルマーク作って私を驚かせるような男」

「さて、そろそろ核心に移ろうかしら…待って、私、彼がすごくハンサムだってこと、書いたかしら?」

そして最後に、こうつけ加えます。
「ジェイソンとの時間が、もっと欲しかった。子供たちとの時間も。だけど、残念ながらそれは叶わない。もうあと数日もしないうちに、私はこの惑星からいなくなってしまうから。私の願いはただ一つ、このコラムを読んだ誰かがジェイソンを見つけて、また別のラブストーリーをはじめてほしい。このあとは、空欄にしておきます。2人が、まったく新しい物語を描いていけるように」

コラムが掲載された10日後の2017年3月13日、エイミーは永遠の眠りにつきました。

その死は、アメリカ中から悼まれました。彼女の作品のファン、作家仲間や出版関係者、そしてたまたま新聞でコラムを読んだ人…非常に多くの追悼のコメントが寄せられました。

夫のジェイソンは、エイミーのコラムについてこう語っています。
「これは全世界を惹きつけた、エイミーからのギフトです。残念ながら、私はエイミーほど物を書く才能を持っていませんが、もし持っていたら、私の書く物語は素晴らしく壮大なラブストーリーになるでしょう…エイミーと私のラブストーリーです」

エイミーの残したものは、30冊以上の著作だけではないでしょう。紹介文という形をとった夫への最期のラブレターは、作家らしいウィットに富んだ、愛の証でした。そしてその愛は新聞を通して、世界中の人に確かに届きました。

どんなストーリーよりも美しい結末で、彼女は自らの人生にペンを置いたのです。

プレビュー画像:©︎Facebook/Amy Krouse Rosenthal